アンハッピー・ウエディング〜前編〜

自慢じゃないけど俺、これまでの人生で回らない寿司を食べたことはない。

あ、強いて言うなら、スーパーで売ってるパック詰めのお寿司。あれなら食べたことあるぞ。

あれも回らない寿司のうちに入る…のか?

親戚の付き合いか何かで、何処ぞの料亭で食事をしたことなら何回か…あったような気もするが。

それだって、度々のことじゃない。2、3年に一度くらいか。

そういうお店での正しいテーブルマナー…なんて、当然知るはずもないし。

生まれながらのお嬢さんと、そんなお店で一緒に食事なんでしようものなら。

俺が一方的に恥をかいて、店員さんに冷ややかな目で見られるのがオチ。

めっちゃ気まずいんだけど。

つーか、そういう店ってさ…ドレスコードとかあるんじゃないの?

俺は、着古した普段着のままだし。

お嬢さんなんて、俺のお下がり着てるんだぞ。

果たして、こんな格好で、お高い店に入れてもらえるのだろうか。

さっき服買った後、試着室で着替えさせれば良かった…。

今更後悔しても、もう遅い。

「あのさ、お嬢さん。あんたが普段行くようなお高い店は、今回は無理かも、」

と、はっきり言おうと思ったら。

「私、悠理君がいつも行ってるお店で食べたい」

と、お嬢さんが言った。

期待に胸を膨らませた顔で。

…え、俺?

「悠理君は、いつもどんなお店でご飯食べるの?」 

「え、お、俺に聞くのか…?」

「うん」

「…」

服も自分で選ばないと思ったら、昼飯を何処で食べるのかも俺に決めさせるのか。

まぁ…良いか。高級料亭に行こう、って言われたら困るし。

って言っても…俺が普段行くお店って…。

俺、そんなグルメ通な人間じゃないから。

しかも、この土地に来たのは数日前だから。

隠れた名店とか、行きつけの小料理屋とか、全然知らない。

「そう言われてもな…。俺が普段利用してる店って…。…精々、チェーン店くらいだぞ…?」

お嬢さんが外食のとき行く店に比べたら。

俺が行く店なんて、本当…庶民の飲食店だぞ。

全国チェーンのファミレスとか、ファーストフードとか…。

牛丼屋とかうどん屋とか、ちょっと贅沢をして焼肉屋に…行くこともあるけど、それだってチェーン店だし。

改めて考えてみると、俺の生活って本当所帯染みてると言うか…。

お嬢さんに比べると、貧乏臭いにも程があるな。

良いじゃん、全国チェーンのファミレスでも。

間違いないぞ。手頃な値段で、味もそこそこだし。

「それ何?ちぇーん店ってお店があるの?」

「いや、そうじゃなくて…。全国展開のファミレスとか、ファーストフードとか…」

「ふぁみれす?美味しそうだね。ティラミスみたいな名前で」

ファミリーレストランをご存知でない。さすがお嬢様。

あと、ティラミスとは違うぞ。