「ふぅ。ご馳走様でした。とても美味しかったです」

「マジかよ…。完食しやがった…!」

「そこらのフードファイターより強いんじゃね?乙無の兄さん、あんたテレビに出られるよ」

よくやってるよな。大食いチャレンジの番組。

俺、あれ好きじゃないんだよ。ひーひー言いながら、無理矢理大量に口の中に押し込むの。食べ物が勿体ない気がして。

でも、乙無ならマジで、そういう番組に出られそうだ。

マジで完食しやがった。

あの巨大ケーキ、半分以上残ってたのに、全部乙無が食べたよ。

あんたのその身体の、何処にあのケーキが全部収まってるんだ?

いくら乙無が、無類の甘いもの好きでも。

さすがに今回はヤバいと言うか…目を疑うと言うか…。

人間とは思えない。

「…なぁ、乙無。あんた、実はマジで邪神の眷属なのか…?」

「実は、ってどういう意味ですか。もとから僕は邪神の眷属。邪神イングレア様の忠実なる下僕です」

「そうか…。今日ばかりは、そのドヤ顔を笑えないよ…」

それだけのことをやり切ったんだから、堂々とドヤ顔してくれ。

許す。

「何だか申し訳ないですね。悠理さんの誕生日ケーキなのに、ほとんど僕が食べちゃって。チョコプレートも頂いちゃいましたし」

「ん?いや、良いよ…。俺は食べ切れないし、残しておいても、この季節じゃすぐ痛みそうだからな…」

「もらいっぱなしというのも気持ち悪いですね。今度、また改めて誕生日プレゼントを持ってきます」

そんな気を遣わなくて良いぞ。

誕生日ケーキなら、俺だってちゃんと食べたし。

まだ胃の中で生クリームが暴れてる気分だよ。

「そんじゃ、そろそろ帰るか…。あー。まだ口の中が甘ったるい。帰ったら塩舐めるわ」

「僕はまだまだ行けますけどね。何せ僕は、イングレア様に選ばれし闇の眷属…」

「眷属になったら、無限の胃袋で好きなもの好きなだけ食べられんのかー。良いなー。自分も眷属なろっかなー」

バイト始めよっかなー、みたいなノリで眷属になろうとするな。



…帰っていく雛堂と乙無を見送り。

こうして、俺の16回目の誕生日が終わったのだった。

実に破天荒な一日だったが…まぁ、たまにはこういうのも悪くない。

あと、寿々花さんからもらったクローバーの花束は、ちゃんと押し花にして取っておいた。