アンハッピー・ウエディング〜前編〜

既に、酢豚とはかけ離れた料理と化している気がする。

つーか、そもそも豚肉じゃないし…。

「そうだ。隠し味入れなきゃ」

出た。またしても、料理が苦手な人あるある。

料理出来ない人に限って、隠し味を入れたがるんだよ。

素直にレシピ通り作っとけって。

隠し味なんてものを入れるのは、料理上級者になってからだ。

「何入れよっかなー…」

隠し味に何を入れようかと、冷蔵庫の中を物色し始めた。

頼むから変なもの入れないでくれよ…?既に変なものしか入ってないけども…。

「これとこれ…。それからこれにしよーっと」

取り出したのは、ケチャップとイチゴジャム、梅肉ペースト、そしてお酢だった。

隠し味じゃなくて。それがお酢だよ。気付けって。

また…凄まじい隠し味のチョイス。

味の想像が全くつかないんだけど?

しかも。

「えーい」

隠し味だ、って言ってるのに。

寿々花さんは盛大に、ケチャップを全力で搾った。

絶対、大さじ5杯くらいは入ってる。

それ、もう隠し味じゃない。

「次にこっちー」

チューブ入りの梅肉ペーストを、またしても全力で搾る。

ちょ、おいおい。待てって。

さすがに、これ以上見ていられなくなった。

これ以上は、食材に対する冒涜だ。

「次はこれ…」

いちごジャムの瓶の蓋を開け、中身をそのまま土鍋にぶち撒けようとしていたところを。

「ちょっと待った!ストップ!」

寸前のところで、止めに入った。

…が。

「…ほぇ?」

間一髪のところで間に合わず、いちごジャムの塊がべちょっ、と土鍋の中に落ちた。

あぁ…やってしまった。

いちごジャムだけは救いたかったのに。またしても尊い犠牲を。

「どうしたの、悠理君…。何かあったの?」

それはこっちの台詞だっての。

「ちょっと落ち着け、寿々花さん。これ以上は駄目だ。食材が勿体ない」

「え?」

「頼む。よく見るんだ、これは本当にお酢か?」

俺は、半分くらいに減らされたみりんの容器を、寿々花さんに見せた。

あぁ…このみりん、本みりんでそこそこお高い奴だったのに。

「お酢って書いてあるか?」

「ぽんみりん、って書いてある」

「…本みりんな」

そんな可愛らしく言っても駄目。

「で、あんたが今作ろうとしてるのは何だ?」

「んーとね、酢豚!」

「だよな?でも、あんたが今鍋に入れたのは牛肉であって、豚じゃない」

「…?」

そんな可愛らしく首を傾げても駄目。

「作り方が全然違うし、使ってる材料も調味料も違うし、あと隠し味入れ過ぎ!全然隠れてないだろ」

「ほぇ?でも…」

「でもじゃなくて…もう、あとは俺が代わるから、向こうで大人しくしててくれ」

結局こうなるのな。

…こんなことなら、初めから俺が隣で助手をしておくべきだった。