アンハッピー・ウエディング〜前編〜

酢豚ってさ、作るの結構難しい料理だと思わないか?

先に野菜を切って、肉に下味をつけて。

まず材料を全部油で揚げてから、甘酢あんのタレを作って絡めて…って。

なかなか色んな工程があって、面倒臭い印象。

そこは素直に、カレーにしとけって。材料全部鍋に放り込んで、水とカレー粉入れて煮込めば完成じゃん。

何故料理が苦手な人に限って、難しい料理に挑戦しようとするのか。

いや、逆だな。料理が苦手だからこそ、その料理が難しいと知らずに挑戦してしまうのだ。

で、案の定失敗する。この負のループを断ち切るには、誰か料理が得意な人が、ちゃんと教えてあげなきゃいけないのだ。

酢豚は牛肉じゃなくて、豚肉で作るんだよ、って。

まぁ、仕方ない。確かうち、今豚肉の買い置きはなかったはずだから。

酢豚を作ろうと思っても、豚肉がない。

そもそもこのお嬢さん、レシピを知ってるのか?酢豚のレシピ。

「えーと…。確か、去年の調理実習で作った時は…」

おっ。成程。

寿々花さんは去年の調理実習で、酢豚を作った経験があるらしい。

それで酢豚を作ろうと思ったのか。納得。

…で、その時も牛肉で作ったのか?

つーか、酢豚にじゃがいもなんか入れるっけ…?

「まずは、材料を全部切ってー」

包丁とまな板を取り出し、材料を全部ぶつ切り。

手元大丈夫だよな?うっかり手を切ったりしないでくれよ?頼むから。

この際、ニンジンもじゃがいもも、全部皮を剥かずにそのまま使ってるのは、見なかったことにしてやるよ。

寿々花さんにピーラーなんて使わせたら、うっかり指の皮まで削りかねない。

あーあー…。切り方がバラバラ…。

あれじゃあ火の通りがめちゃくちゃに…。まぁ良いよ。怪我しないのなら…。

「次に牛さんを切ってー、っと」

牛肉の小間切れを、切ると言うより引き千切って小さくする寿々花さん。

見てるだけで、超ハラハラする。

「よし、材料切れた。次はどうするんだっけ…」

揚げるんだよ、油で。フライパンに油を入れて…。

「そうだ。お鍋に入れるんだ」

などと言って、何故か食器棚から土鍋を取り出した。

…何故土鍋?

「えいっ」

思いっきり強火で、油も引かずに材料を全部ぶち込む。

なんと思い切りの良い。

「それから…あとは、お酢を入れて煮込んだら完成だねー」

まさか。

この人、酢豚を食べたことないのか?

酢豚って、材料を全部お酢で煮込んだ食べ物だと思ってる?

想像しただけで、口の中が酸っぱいんだけど。

おい、聖青薔薇学園女子部の家庭科の先生。

生徒に、ちゃんと教えたのか?酢豚ってのがどういう食べ物なのか。

想像で作ろうとするんじゃねぇ。

しかも、あろうことか。

「えぇっと…。お酢、お酢はー…」

きょろきょろとキッチンを見渡して、お酢を探す寿々花さん。

冷蔵庫の中だよ。右の扉の裏。

しかし、寿々花さんが手に取ったのは。

「あ、あった。これだー」

違う。それみりん。

色は似てるけども。全く違う調味料だ。

「えいっ」

止める間もなく、みりんをどぼどぼと土鍋に投入。

…これ、マジでこの後どうすんの?