アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「…いっ…!てぇ…!」

突然の人工呼吸未遂のお陰で、忘れていた頭頂部の痛みがようやく蘇った。

いてぇよマジで。頭割れるかと思った。

大袈裟だって思った奴、ちょっとこっちに来い。バケツで脳天ぶん殴ってやるから。

情けなくも、痛みのあまり涙目になったが。

全身ずぶ濡れのお陰で、情けない涙を誤魔化すことが出来た。

「悠理君…。…頭大丈夫?」

それ、怪我のことを聞いてるんだよな?

なんか別の意味にも聞こえるんだけど。

「あ…あんたこそ…。さっき躓いてただろ。大丈夫なのか…?」

痛みに呻きながらも、俺は声を絞り出して寿々花さんに尋ねた。

「私?…うん、何処も痛くない。全然濡れてもいないし」

「そうか…。それは何より…」

良いんだよ。寿々花さんが怪我してんじゃないなら。何でも。

寿々花さんに怪我なんかさせたら、面目が立たないからな。

「痛いの?よしよし。頭撫でてあげるね。痛いの痛いの飛んでけー」

とか言いながら、寿々花さんは俺の頭のてっぺんを、よしよし、と撫でた。

ちょ、痛いんだけど。触るなって。

つーか、お子様じゃないんだから…。そんなことで痛いのは飛んでってくれないっての。

…まぁ、心配してくれるのは嬉しいけどさ。

「まさか、下に悠理君がいたとは思わなかったよ」

「…」

…まさか、寿々花さんのことが心配で、皿洗いから洗濯から、ずっとこっそり様子を見張っていたとも言えず。

「でも、大丈夫だよ。お掃除、私ちゃんとやってみせるから」

何処から出てくるんだ。その自信は。

さっきバケツを引っくり返した奴が。

「えーっと…。…とりあえず、バケツに水を汲み直してこよーっと」

「いや、ちょ、まっ…。その前に」

「…?」

先に、床一面ずぶ濡れのここを片付けるのが先だろ。

階段でバケツを引っくり返したものだから、ご丁寧に階段一段ずつに水滴が散っている。

まずは、この濡れた廊下と階段を拭かなくては。

足を滑らせてまた転んだら、今度こそ寿々花お嬢さんが怪我をしてしまう。

「俺がやるから。俺が片付けるから、たんたは大人しくしててくれ」

「え?それは駄目だよ。だって、今日は悠理君の誕生日で、お殿様の日なんだよ?働いたら駄目なんだよ」

「そうは言うけど…」

あんたに片付けさせたら、二次被害、三次被害が発生しそうで怖いんだよ。

「お殿様なんて言ってられねーよ。あんたに濡れた床と階段掃除させて、うっかり足を滑らせて怪我でもしたら、それ俺の責任だから」

そんなことになったら、一生後悔する。

ましてや寿々花さん、今寝不足なんだろ?

階段でフラッとして倒れてみろ。恐ろしいことになる。

誕生日だとか何だとか、それは関係ない。

「俺がやるから。頼むから大人しくしててくれ。な?」

「…でも…。…じゃあ、せめて私も手伝うよ」

「気持ちは嬉しいけど、下手に寿々花さんに手伝ってもらって、余計悪化したら困るから。何もしなくて良いから、向こうで待っててくれ」

「…」

可哀想だけど、今はこうするしかなかった。

…さて、それじゃあやるか。