アンハッピー・ウエディング〜前編〜

…あとは、もうどうなったか分かるな? 

寿々花さんが蹴躓く→水満タンのバケツを落っことす→バケツ真っ逆さま→階下にいた俺に、バケツの水が降り注ぐ→とどめとばかりに、脳天にバケツ直撃。の順で被弾。

完全ノックアウト。カンカンカンカン。

…冗談言ってる場合じゃねーから。

脳天にバケツが直撃した瞬間、目の前に火花が散った。

これがギャグ漫画だったら、今頃俺の頭の上に、ひよこが群れを為してぴよぴよ踊ってるんだろうなぁ…と。

遠い頭で考える余裕はあったから、意外と大丈夫なのかもしれない。

階下でずぶ濡れになって、バケツの一撃を食らって悶絶している俺を見て、寿々花さんが一言。

「あーれー…」

あーれーじゃないんだよ。

それが、人の頭に水とバケツをぶちまけた奴の台詞か?

「…悠理君…大丈夫?」

てこてこ、と階段を降りてきて、寿々花さんが声をかけてきた。

ごめんな。大丈夫、って言ってあげたいんだけど。

ちょっと、声が出なかった。

声にならない悲鳴をあげて悶絶している俺に、寿々花さんは。

「悠理君が大変そう。…どうしよう?こんな時は、えっと…。AED…はないから、あっ。110番が先だっけ…?」

119番だろ。警察呼んでどうするんだよ。

と、声が出なかったので頭の中で突っ込んだ。

「えーと。確か横向きにして、足を曲げて回復体位…あれ?逆だっけ?」

「…」

「あ、そうだ。こんな時はそう…人工呼吸だ」

「…!?」

は?

ちょ、あんた何を言って、

あろうことか寿々花さんは、俺の顔を覗き込むようにして、自分の顔を近づけてきた。

「ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー。準備良し。ちょっと待ってね悠理君。今人工呼吸を、」

「ちょ、まっ…。待てって!」

「あ、生き返った」

目の前に寿々花さんの顔が迫って、俺は何とか声を絞り出した。

慌てて飛び退いて、距離を取った。

…び…。

…びっくりした。

まさか、何の躊躇いもなく人工呼吸を試みるとは。

ってか、人工呼吸とラマーズ法混同してなかった?

いや、そんなことはどうでも良いんだよ。

危ないところだった。なんかこう…倫理的に。

危うく…越えてはならない一線を越えるところだった。

「悠理君、大丈夫?…何だか顔が赤いけど」

「だ…誰のせいだと思ってんだよ…」

九死に一生を得た気分だ。…色んな意味で。