アンハッピー・ウエディング〜前編〜

女性としては珍しいように思うが、お嬢さんは自分の着る服に興味がないんだろう。

まぁそういう人もいるだろう。

だが、それでも普段着が一着しかないのは不味い。

何より、着るものが何もないからって、寝間着代わりの俺のお古ジャージや。

ましてや下着姿で家の中をうろちょろされると、俺がたいへん困る。

そりゃもう大層困る。

よって、大至急、服を買ってきてもらう。

今日、今すぐ行ってきてもらうぞ。

春休みのうちに行かないと。学校が始まったら、余計買い物に行く時間なんてなくなるだろう。

「普段着、四、五着くらい買ってこい」

どうせ金には困ってないだろ。お嬢様なんだから。

好きな服、好きなだけ買ってこいよ。

女性だったら、そういうショッピングは楽しみなものだと思ってきたが…。

「えー」

何故か、お嬢さんは不服そうな顔。

…何でだ?

今日は買い物に行きたくない気分か?それとも、他に何か予定でもあるのか。

「何が不満なんだ?」

服なんて増やしたくない。このままミニマリストとして生きていきたいってことか?

生きていく上で最低限の身の回りの品までケチるのは、それはミニマリストとは言わないぞ。

ただのドケチだ。

無月院のお嬢様ともあろう者が、そんなドケチに生きるな。

と、思ったが。

お嬢さんが言いたいのは、そういうことではなかった。

「服、ないと困るだろ?買ってこいよ」

「えー…。…うーん…。…悠理君と一緒だったら良いよ」

は?

何?その妥協案。

何故かお嬢さんは、俺をご指名だった。

あっ、成程。荷物持ちってこと?

四枚も五枚も服買うのに、全部自分で運ぶのは嫌だってことか?

「だって、一人で買い物行くの自信がないんだもん」

…そっち?

荷物持ちに来て欲しいとかじゃなくて、そもそも一人で買い物に慣れていないとのこと。

何じゃ、そりゃ…。

無月院のお嬢様は、一人で買い物もままならないのか?

「あんた…。一人で買い物も行けないのか…?」

「だって、あんまり一人で行ったことないから」

「この家の大量のカップ麺とレトルト食品は?どうやって買ってきたんだよ」

自分で買ってきたんじゃないのか?

あ、それとも通販か?通販で買って届けてもらったのか。

「実家のお手伝いさんに頼んで、買ってきてもらったんだー」

通販ですらなかった。

成程、実家のお手伝いさん…。つまり、俺がここに来る前にお嬢さんの身の回りの面倒を見ていた人に、買い物を頼んでいたと。

そういうことだったか。

自分で買い物すら出来ないとは…。何とも情けないお嬢様だ。

いや、むしろお嬢様らしいと言うべきか?

近所のスーパーマーケットなんて、行ったこともないんだろうなぁ。

「じゃあ、服も実家のお手伝いさんに頼めば…。…あ、いや駄目か。今日、すぐに必要なんだもんな…」

お嬢さんのお使いの為に、わざわざ呼びつけるのも失礼な気がするし。

…分かったよ。

「一緒に行くよ…それなら良いだろ?」

「うん、良いよー」

…ったく、俺、今日こそ引っ越しの荷物を片付けてしまうつもりだったのに…。

このままじゃ、片付け終わらないままに学校始まってしまいそうだ。