アンハッピー・ウエディング〜前編〜

母さんが買ってきてくれたチーズケーキは、めちゃくちゃ美味しかった。

五臓六腑に染み渡る、って言うか。

人生で、これほどチーズケーキを美味しく食べたことがあるだろうか。

え?大袈裟?

そう思った奴は、さっきのインスタントラーメン食べてこいよ。

あれの後で食べたものなら、何でも感動するくらい美味いからさ。

この世にこんな美味しいものが存在したのか、って思うから。マジで。

「美味しかったねー、悠理君」

「あぁ…。多分、人生でこんなに美味しいチーズケーキは、もう二度とないだろうな…」

生き返った気分だよ。

「…よし。こうしちゃいられないや。悠理君、私頑張るね」

「お、おぉ…?」

何を?と聞く暇もなく。

寿々花さんはケーキのお皿を片付けて、さっさと二階に上がって行ってしまった。

…何を企んでるんだ?

何でも良いよ。…変なことでなければ。

「やれやれ。困った奴…」

という俺の呟きを、母さんは聞き逃さなかった。

「…上手くやってる?」

「…は?」

「その…寿々花お嬢様と一緒に暮らすの…。価値観の合わない人と暮らすのは、大変だろうと思って…」

…あぁ、成程。そういう話…。

心配してくれてたんだろうな。ずっと。

生まれも育ちも、まるで正反対に近い俺と寿々花さんが。

一つ屋根の下、ほぼ初対面同士でいきなり同居。

そりゃ大変だろうよ。…俺だって、最初はそう思ってた。

覚悟してたよ。色んなことをな。

だけど、実際一緒に暮らしてみると。

大変なことは確かにあったよ。…今日とか。

それでも…最初に心配していたほどではなかった。

大変なことより、拍子抜けすることの方が多かった気がする。

「彼女…あなたに辛く当たったりしてない?」

「いや、それはない」

俺は、それだけはきっぱりと否定した。

俺も最初は、それをずっと心配してたんだが。

驚くほど、そういうことは全くない。

「あの人、お嬢様の癖に、全然お嬢様っぽくないって言うか…。さっきも見ただろ?ちっこい子供みたいなんだよ」

「そうなの?傲慢に振る舞ったりとか…」

「いや、全然ない」

あの人と来たら、何処までも無邪気で悪意がなくて、お子様で…。

何も考えてない顔して、実際何も考えてないことの方が多いけど。

それでいて、妙に繊細って言うか…傷つきやすいところもあって。

…なんつーか、誰かが手綱を引いて、守ってやらなきゃいけないって思う。

一言で表現するのは難しいな。

ただ、確かに言えるのは。

「思ってたより、悪い生活じゃないよ」

もっと、悲惨な生活が待ってると思ってた。

召使いみたいな。自由のない奴隷みたいな生活を送ることになるんだろうと。

でも、そんなことはなかった。

こんな毎日がこれから先も続くなら、悪くないって思える。