「服がないって、どういうことなんだ?」

昨日も一昨日も、服着てたじゃん。

お嬢様の割には、やけに着古したよれよれの服だなーと思ったけど…。

「そのままの意味だよ。昨日まで着てた服、昨日の夜に悠理君が洗濯しちゃったから…」

あぁ。

家電が届いたんだよ。注文してた新品の洗濯機が。

昨日の夜、早速、溜まってた洗濯物を片付けた。

「だから、着るものなくなっちゃった」

「…」

…いや、なくなっちゃったって…。

別に、昨日まで着てたあの服にこだわらなくても。

「他の服着れば…?」

まさか、クローゼットの中に入ってるの、昨日のあの服しかない訳じゃないだろ。

しかし。

「でも、私、他の服は制服しか持ってないから」

まさか、本当にクローゼットの中に昨日の服しか入ってなかったとは。

俺でさえ、普段着の替えは四、五着は持っているというのに。

男の俺の方が衣装持ちって、どういうことだよ。

「お前…それでよく今まで生活してこられたな…」

「うん。だって、最悪着るものがなければ、裸でいれば良いんだもん」

何?その頭悪そうなマリー・アントワネット理論。

春夏はそれで良いとして、秋冬は風邪引くぞ。服着ろ。

それなのに、お嬢さんはあろうことか。

「仕方ない。悠理君がパジャマは駄目って言うから、脱ごっかー」

「ちょ、馬鹿ここで脱ぐな!つーか服着ろ!」

「だって、服持ってないんだもん」

あぁ、そうでしたね!

だからって、下着姿で家の中をうろちょろするのは、自分の部屋の中だけにしてもらおうか。

一人暮らしのときは、いくらでも裸族で過ごして良いけども。

今は俺という同居人がいるんだから、例え家の中でも、身だしなみは気をつけてもらうぞ。

うっかりお嬢さんの下着姿なんて見てしまったら、目も当てられないからな。

そりゃお嬢さんにとって、伴侶とは名ばかりで、俺のことなど召使いも同然かもしれないけど。

一応俺だって男なんだから、最低限の礼儀ってもんがあるだろ。

そんな訳なので。

「服を着てくれ。頼むから」

パジャマや下着姿でうろちょろするな。

「だから、他に持ってないんだってば」

「…仕方ない。分かったよ」

俺は自分の部屋に戻って、自分の洗い替えの服を一着、持ってきた。

「代わりに、これでも着ててくれ」

「わー。悠理君の服だ」

俺の服だから、当然男モノなんだが。

今は贅沢言ってられないからな。

出来るだけ中性的なデザインの服を選んだ…つもりだが、やっぱりひと目見て男モノだと分かってしまう。

しょうがないだろ。下着姿でうろうろされる訳にはいかないし。

ましてや、何でも良いから服を着ないと、外にも出られないだろう?

「ぶかぶかだー」

当たり前だけどサイズが違うから、袖口も長いし、スラックスの足首も長い。

折り曲げて何とか…ってところか。それでも不格好なのは変わりない。

パジャマよりマシ。

「しばらくの間、それで我慢してくれ」

「私はずっとこれでも良いよ?」

俺が嫌だから却下。

今度は俺の着るものがなくなるだろ。

「今日中に、急いで服を買ってきてくれ。何でも良いから」

それで何とか…間に合わせるとしよう。