アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「…?今は人間じゃないの?」

きょとん、と首を傾げる寿々花さん。

良いって、相手にしなくても。どうせいつもの中二病だから。

「そうですよ」

「じゃあ何なの?…人造人間?アンドロイド?」

「いいえ、僕は邪神の眷属です」

ドヤァ、と中二病設定を披露していた。

あんたは本当…恥ずかしげもなく…。

「じゃしんの…けんぞく?って何?」

当然の疑問である。

百人が聞いたら、百人が首を傾げるに決まってる。

「この世の暗黒を統べる神、邪神イングレア様の忠実なる下僕のことです」

「神様のしもべ?…なんだか凄いね」

「でしょう?」

「しもべって何するの?」

寿々花さん、聞かなくて良いって。

寿々花さんが興味津々で聞いてくれるものだから、乙無が止まらない。

「イングレア様がこの世界に再臨される手助けです。世界を回り、罪の器を満たすことによって、それをイングレア様のお力に変えるんです」

「ほぇー。何だか凄いねー」

「まぁ、並の人間には出来ないことですからね」

ムカつくドヤ顔してんなぁ。乙無。

寿々花さんが真面目に相手してくれるのが、余程嬉しいと見える。

いつもなら、俺と雛堂に適当にあしらわれてるからな。

「私もじゃしんのけんぞく、やってみたい」

やめとけって。

寿々花さんまで「邪神イングレア様が〜」とか言い出したら、俺はどうしたら良いんだよ。

「有り難い申し出ですが、誰にでもなれるという訳ではないんですよ」

「そうなの?」

「えぇ。イングレア様の眷属になるのは、この世に絶望した人間が、イングレア様に人生最後の選択肢として、イングレア様の血を頂いた者です」

「ほぇー」

「誰もが、その血に適合出来るとは限りません。99%適合せずに、神たる血の力に呑まれて即死します。神の下僕に選ばれた人間だけが、血に適合し、邪神の眷属となることを許されるのです」

「わー。すごーい」

…はいはい、って感じだけどな。

必死で考えたんだろうなぁ。その設定。

設定資料集とか作ってそう。俗に言う中二病ノートだな。

「あなたもいつか、人生に絶望し、かつイングレア様に最後の選択肢を与えてもらって、その血に適合することが出来れば…。いつか、僕の同類になれるかもしれませんね」

「うん、頑張るー」

頑張らんで良い。

「…なんつーか、無月院家のお嬢様って聞いて、凄い賢い高嶺の花だと思ってたけど」

目をキラキラさせて、乙無の中二病設定を聞く寿々花さんを見て。

雛堂が、俺の耳元でポツリと言った。

「…意外と天然入ってたりする?」

「…偏見で人を判断するな、ってことだ」

お嬢様だからって、皆が皆賢くて高飛車で、高嶺の花だとは限らないぞ。

寿々花さん見てると、つくづくそう思うよな。