「あのな、着替えてから来いって」

「ほぇ?」

ほぇ?じゃなくて。

「どうせ、食べたらまた二階に戻って着替えるんだろ?だったら食べる前に、起きてすぐ着替えたらどうだ?」

え?別に寝間着で朝飯食うくらい良いじゃん、って?

そういうことじゃないんだよ。

だってこのお嬢さんの格好、普通のパジャマじゃないんだもん。

ぶかぶかのジャージの胸元がはだけて、非常に際どいアングルになってんの。

今にも片乳はみ出しそうな状態で、トーストに齧りついてんの。

色んな意味で目に悪い。

「着替えろ!」って言いたくなる俺の気持ち、分かってもらえるだろ?

見たくもないのに見せられたら、それはもうテロだぞ。

「えー…。だって…」

だって、何だよ?

面倒臭いってか?お腹空いたから先に食べたいってか?

しかし。

「着替える服がないんだもん」

サクッ、とトーストを齧りながら、お嬢さんはそう答えた。

「…え」

その返答は…かなり、予想外だった。

着替える服がないって…どういう意味だ?

あ、そうか。

「枕元に用意しておいてくれ、ってことだな?」

寝る前にちゃんと、明日着る服を畳んで重ねて、枕元に置いておいてくれ、と。

子供みたいなもんだな。

あるいは、今どきは絶滅危惧種の亭主関白な旦那みたい。

うちの場合は、男女が逆だけどな。

この人お嬢様だし、実家ではお手伝いさんがいるような生活をしていたんだから。

着るものを自分で選ぶんじゃなくて、お手伝いさんに選んでもらっていたのかも。

成程、それは俺の気配りが足りなかった。

「分かったよ。明日からは、俺が着るもの選んでおく…」

…とは言ったけど、俺、女モノの服なんて選べないんだけど。

学校が始まれば、考える必要もなく、ただ制服を用意しておけば良いんだろうが。

普段着はどうしたら良いんだろう…。

いくつかコーディネートのパターンを決めて、それをローテーションするとか。

あるいは、前日にお嬢さんに尋ねて、明日何着るか決めておいて…。

と、色々考えていると。

「?そうじゃないよ。着る服がないんだよ」

お嬢さんは相変わらず、もぐもぐとトーストを齧りながら言った。

…。

…着る服がないって、どういう意味なんだ?