アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「…!…?」

凄まじい勢いで鳴らされるインターホンに、寿々花さんがビビッていた。

うちのお嬢さんをビビらせてるんじゃないぞ。

ヘビでもワニでも深海魚でもビビらなかった寿々花さんだが、人間相手はビビるらしい。

「強盗…?もしかして空き巣かな?」

「…空き巣ではないと思うぞ。俺達、今在宅中だし」

家主が留守にしてる間に入ってくるのが空き巣だろ。

大丈夫だよ。俺が出るから。

「おい。人んちを訪ねるのに、もう少し静かに入ってこられないのかよ」

やって来た雛堂に文句を言ってやったところ、雛堂はあろうことか。

「うるせー。おめーこんな良い家に住んでるとか聞いてねーぞ!」

まさかの逆ギレ。

「毎日弁当持ってきて家庭的アピールしときながら、まさかこんな立派な家に住んでたとはよぉ!星見の兄さんは同類だと思ってたのに!何だよあの庭の広さ!庭に木ぃ生えてんじゃん!」

両肩をガシッと掴まれて、ゆさゆさ揺さぶれた。

ちょ、何なんだよ。やめろって。

「悠理さんのご自宅があまりに立派なものだから、大也さん嫉妬してるんだと思いますよ。さっきから道歩きながら、『この辺高級住宅街じゃね!?星見の兄さんって、もしかして超金持ちなんじゃね!?』って喚いてましたから」

と、乙無が解説してくれた。

あぁ、成程…。

「そうしたら辿り着いた住所は、周囲の住宅と比べてひときわ豪華なこの家だったので。それで、大也さんの嫉妬と僻みが頂点に達した訳です。いやはや。これだから人間の感情というものは醜いですね」

全くだな。

そんな理由で逆ギレされたって、俺だって困るわ。

まぁ、でも気持ちは分かる。

確かに俺も、この家を最初に見たときは、雛堂と同じこと思ったもん。

「畜生、金持ちのボンボンがよぅ…。今度から、星見のお坊っちゃまって呼んでやるからな!」

半泣きで捨て台詞。

俺がお坊っちゃまなんじゃなくて、一緒に住んでる寿々花さんがお嬢様なんだよ。

俺はしがない平民だっての。

「…で、どうするんだよ。このまま帰るのか?」

「帰らねーわ!こうなったら食べまくって、星見の兄さんちの冷蔵庫を空っぽにしてやるからな!」

なんとまぁささやかな報復だよ。

良いよ、別に。

「それに、外観は広そうで立派な家でも、家の中は廊下が軋んでたり家具が古ぼけてたり、なんてのはよくある話だからな。見た目あんだけ立派な家なんだから、家の中もさぞかし高級感溢れてるんだろうなぁ!?お邪魔しまーす!」

と、デカい声をあげて雛堂が入ってきた。

…騒がしい奴だよ。

「僕もお邪魔します」

「おぉ、乙無…。そういやあんた、ちゃんと来たんだな」

スルーするかと思ってたよ。

「大也さんから、一方的に日時と場所がメールされてきたんですよ。僕は勿論忙しかったんですが、無理を押して来たんです」

「へぇ、そうなのか…」

要するに暇だったんだろうな、乙無も。

乙無の分も用意しておいて、良かった。