アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「雨…。花火…。中止…」

ぼそぼそと小声で呟いている。

寿々花さんの落ち込みようと言ったら、あまりの暗さにキノコが生えてきそうなくらい。

「中止だもんなぁ…。せめて順延だったら…あ、ごめん…」

「…」

なんか、余計落ち込ませちゃったみたいだ。

仮に順延だったとしても、一週間先まで雨じゃ…。

どっちみち、無理だったかもな…。

「仕方ねぇよ。お天道様相手じゃ勝てないって」

そういうこともあるよ。

特に、今回は雨男の雛堂が関わってた訳だし。

恨むならあいつを恨もうぜ。

「…花火大会、楽しみにしてたのに…」

と、寿々花さんは未練がましく呟いた。

まぁ、うん。そうだな。

昨日、めっちゃはしゃいでたもんな。

「りんご飴食べたかった…おっきいりんご飴…」

「そ、そうだな」

昨日散々言ってたもんな。りんご飴。

祭りのときくらいしか食べる機会ないし。

「金魚すくいしたかった…」

「う、うん」

「赤と黒を一匹ずつ取って、玄米ともち米って名前をつけて、大切に飼おうと思ってたのに…」

金魚の名前まで決まってたのかよ。

つーか、何で米…?

寿々花さんのネーミングセンスよ。

「悠理君と一緒に花火を見て、たまやーって言いたかった…」

「そ、そうか…」

「…でも、中止なんだね…」

「…」

ずーん、と沈み込む寿々花さん。

凄い可哀想なんだけど。

しかし、いくら可哀想でも…俺には、どうにもしてあげられない。

俺が何したって雨は止まないし。

仮に奇跡が起きて、今から雨が止んだとしても。

既に中止を決定してしまった以上、「雨が止んだのでやっぱり開催します」とはならないだろう。

…残念だけど、受け入れるしかないようだ。

「大丈夫だよ、寿々花さん。花火大会ならまた来年…。また来年あるって」

こうなったら、来年に望みを託すしかない。

来年は雨天中止にならないように、花火大会当日に雨男の雛堂をふん縛って、ロッカーに軟禁しておくからさ。

そうすれば大丈夫だよ。来年こそは。

…でも。

「来年…。まだまだ先…」

「…」

…だよなぁ。

あと365日だろ?まだまだ先過ぎるわ。

どう言って慰めたら良いものか。 

「し、仕方ないって。そういうこともあるだろ。お天道様相手に落ち込んでも、どうしようもないよ」

「…」

ヤバい。俺の慰め方が雑なせいで、全然立ち直ってくれない。

他に何かないのか。気の利いた励まし…。

「そう、じゃあ昼にオムライス作ってやるから。それで元気出してくれ。な?」

出てきたのは、そんな子供っぽい短絡的なご褒美だった。

我ながら浅はかだが、しかし。

「…」

寿々花さんは無言で、ちょっぴり顔を上げた。

おっ。ちょっと元気出たか。

「寿々花さんの好きな、大人用お子様ランチを作ってやるよ。オムライスとハンバーグとナポリタンの乗った奴」

「…本当?」

「あぁ、作る。作るから。だから元気出してくれ」

作る手間?そんなの後回しだ。

とにかく、玄関先で落ち込むのはやめて欲しかった。

「ありがとう。悠理君は優しいね…」

「…」

「そうだよね…。雨が降ってるんじゃ、仕方ないよね…」

寿々花さんは、自分にそう言い聞かせていた。

…ひとまず、ちょっとは元気が出たってことでOK?