アンハッピー・ウエディング〜前編〜

その後。

ようやく、『見聞広がるワールド 深海魚水族館』に展示されている、全ての生き物を見て回った。

はー。長かった…。

一応、全部見たぞ。気色悪かったけど…。

…夢に出てきそう。特にタカアシガニ…。

「順路は以上になります。お疲れ様でした」

「ほぇー。面白かったね、悠理君」

「…そう…」

良かったな。面白くて。

寿々花さんが満足そうで、俺も満足だよ。うん。

「最後に、こちらがお土産屋さんになります。来館の記念に、何か買っていかれますか?」

ここも『爬虫類の館』みたいに、順路の最後にお土産の売店があるんだな。

「お土産だって。悠理君、何かお土産買っていこう」

と、寿々花さん。

はいはい、お土産な。

「どんなお土産があるのかな?ミツクリザメの佃煮とか?」

「残念ながらありません。あったら良かったんですけどね」

「そっかー」

あっても買わねーよ。絶対不味いじゃん。

「私のおすすめは、こちらのキーホルダーですね」

出た。『見聞広がるワールド 爬虫類の館』でも売られていた奴だな。

あれの、今度は深海魚バージョンだ。

「前回、私はラブカ。奏さんはタカアシガニのキーホルダーを購入しましたね。覚えていらっしゃいますか?奏さん」

「うん、勿論…。家に…ナイルワニの隣に飾ってあるよ…」

車椅子の青年が、力なく答えた。

ナイルワニの隣に、タカアシガニ…。

押し付けられたんだな?…分かるよ。

「琥珀さんも、今日の記念にどちらか購入されては如何ですか?」

「そうですね。では私はこちらの…アトラクラゲを」

よりによって、あのUFOみたいなクラゲのキーホルダーを手に取る橙乃さん。

あんた、それで良いのかよ。

「どれも格好良いね。悠理君、私達もキーホルダー買おっか。どれにする?」

キラキラと目を輝かせながら、リアル深海魚キーホルダーを眺める寿々花お嬢さんである。

マジ?これ買っていくのか?

他にもっとあるだろ…。あっちのぬいぐるみとか…。

どれもこれも、夢に出てきそうなほど気持ち悪い生き物ばっかだが…。

あ、そうだ。

「よし、じゃあクリオネにしようぜ。俺の唯一の癒やし、」

「グソクムシにしよーっと」

おい。話聞けって。

何で敢えてグソクムシなんだ。もっと他にあるだろ。

いや、他も大概気持ち悪いけども。

「悠理君もお揃いね」

ひょいひょい、と寿々花さんはグソクムシのキーホルダーを二つ手に取った。

何だと?あれ、一つは俺の分?

ちょ、俺はクリオネだって。クリオネ。

しかし寿々花さんは俺の意見を聞くことなく、さっさとレジに持っていってしまった。

あぁ…。俺の選択権は何処に…。

途方に暮れる俺を見て、車椅子の青年がポツリと言った。

「…お互い、強引な女の子に振り回されてるみたいだね」

「…全くだよ…」

あんたは良いじゃん。彼女なんだろ?あの久露花さんって子。

俺なんて、寿々花さんの婿だぞ。逃れようと思っても、絶対逃れられないじゃん。

…まぁ、逃げたいとは思わないんだけども…。