アンハッピー・ウエディング〜前編〜

そして、この自称アンドロイド女子高生は、案の定。

「折角ですから、僭越ながらこの私が、『見聞広がるワールド 深海魚水族館』をご案内しましょう」

久露花さんはまたしても、専属ガイドに立候補。

うん。なんか、そんな流れになるんじゃないかなーとは思ってた。

「私はこの施設は初めてですが、両先輩方にお話を聞いて、独自に深海魚について調べ、知識を蓄えてきました。私にも案内させてください」

何故か、妙なところで負けず嫌いの橙乃さん。

勉強熱心なのは良いことだと思うけどさ…。深海魚の知識って…。

深海魚について調べるな、とは言わない。

だが、もっと他に勉強するべきことがあるんじゃないのか。

何故敢えて深海魚なのか。

…まぁ、もう詳しくは聞くまい。そういうものなんだと思おう。

「…ごめんね、瑠璃華さん。何故か深海魚が好きで…」

遠い目をした車椅子の青年が、俺に謝ってきた。

いや、あんたが悪いんじゃないから。謝らなくて良いから。

「では、早速見て回りましょう。最初はミズウオ…。こちらは先程見ましたから、次はノコギリエイですね」

ガイドをお願いします、と言った覚えはないのだが。

俺が返事をする前に、早速ガイドが始まってしまった。

知らない人に突然話しかけられて、うちの寿々花さんが人見知りを発動しているんじゃないか、と心配したが。

「わー。本当にノコギリみたいだね。ギザギザしてて、触ったら痛そう」

「心配することはありません。此奴の武器は、このノコギリだけ。手始めにノコギリを白刃取りし、へし折ってしまえば、こちらのものです」

「アンドロイドって、そんなこと出来るの?」

「勿論です。『新世界アンドロイド』である私と琥珀さんにとっては、赤子の手を捻るようなものですね」

「おぉー。アンドロイドって凄いね」

…人見知りどころか、意気投合しとる。

ノコギリを白刃取りって、どういうことだよ。

無茶苦茶言ってんな、この自称アンドロイド。

ともあれ、寿々花さんが人見知りを起こしてなくて良かった。

「こっちのお魚さんも、ノコギリみたいなギザギザがあるね。同じ魚…?」

と、ノコギリエイの隣の水槽を指差す寿々花さん。

確かに…そっくりの魚が二つ並んで展示されてるけど…。

同じ魚だけど、品種が違うとか?マアジとシマアジみたいな。

すると。

「いえ、これは同じ魚ではなく、こちらはノコギリザメですね」

と、深海魚博士の久露花さん。

サメとエイの違いだってよ。

分かるか?俺は分からん。

どっちも…あんまり食用って感じじゃないもんな。

スーパーの鮮魚コーナーに並んでるの、見たことない。

「ノコギリエイとの違いは、エラの位置とヒゲの有無、あとは大きさが異なるという点ですね」

「…へー…」

「ちなみに、ノコギリザメと違って、ノコギリエイは実は深海魚ではないんですが。よく似た魚として、この水族館では並べて展示しているようですね」

と、相変わらず豆知識を披露してくれる橙乃さん。

よく調べてんなぁ…。その情熱、もっと他のことに活かせなかったんだろうか。