アンハッピー・ウエディング〜前編〜

二人分の入館料を払って、俺と寿々花さんは『深海魚水族館』の順路を進み始めた。

唯一この水族館の良いところは、普通の水族館に比べて入館料が安いことだな。

人気の水族館だと、大人一人二千円くらいするじゃん?

この『深海魚水族館』だと、半額以下だぜ。

まぁ、そうでもしないと…わざわざ深海魚を見に来るような物好きはいないよなぁ。

「わー。わー。見て、お魚さんだー」

寿々花さんくらいのもんだよ。深海魚を見て喜んでるのは。

その証拠に、見てみろよ。

夏休みシーズンだってのに、俺達以外にお客さんはいな、

「ご覧ください、奏さん。ミズウオですよ」

「う、うん…。…相変わらず気持ち悪、いや…。…インパクトのある見た目だね…」

「私の独自調査によると、水っぽくてあまり美味しくないそうですね」

「これ、食べれるの…!?」

…いたよ。他にも客。

しかも、どっかで聞いたことのある声だなぁ…。

つい最近聞いたばっかの声…。

多分他人の空似だろうと思い込んで、必死にそちらを見ないようにしていたのだが。

「…ん?この生体反応は…」

「私も感知しました。あちらにいるのは…」

「…あれ、君。もしかして…」

…こちらから声を掛ける前に、向こうが先に俺に気づいた。

生体反応って何だよ。普通に見覚えがあるって言えよ。

しかし、声をかけられたからには、無視することも出来なかった。

「…どうも…」

俺は、自称アンドロイド二人と、車椅子の青年に頭を下げた。

言わずもがな、この間『爬虫類の館』で会った三人組である。

…まさか、こんなところでまた会うとはな。

「やはり、あなたでしたか。奇遇ですね」

本当にな。

「『爬虫類の館』に続いて、こちらの『深海魚水族館』にまで足を運ばれるとは…。なかなか個性的な趣味をしていらっしゃいますね」

それは誤解だ。

俺達が今日ここに来たのは、ある種の事故みたいなもんで。

つーか、言ってることブーメランじゃね?あんた達も来てるじゃん。

充分個性的な趣味だよ。

「この『見聞広がるワールド 深海魚水族館』は、先日の『爬虫類の館』と同じく、私と奏さんの思い出の場所でして…」

深海魚水族館が思い出の場所…?

「今日は、琥珀さんにもご案内しようと思いまして。三人で足を運んだ次第です」

「そ、そうっすか…」

「そう言うあなたは…今日は、先日のご友人二人は一緒ではないようですね」

雛堂と乙無のことか?

今日は遠足じゃないからな。

「その代わりに…そちらがお連れ様ですか」

自称アンドロイドの久露花瑠璃華は、俺の横に立っていた寿々花さんを見てそう言った。