さて、そんなお喋りをしていたら、段々花見客が増えてきて。

賑やかになってきたので、そろそろ俺達は退散することにした。

…なんか、ろくに花を見てない気もするが。

まぁいっか…。ここに住むのなら、来年も再来年も、毎年花見の機会はあるだろうし。

それに…。

「お花見楽しかったねー」

何故かお嬢さんが上機嫌だから、それで良しとしよう。

楽しかったか?

弁当食べながら、ずっと喋ってた記憶しかないが。

「今度はお月見に来ようね」

何故お月見…?

「一人じゃなくて、誰かと一緒にお花見なんてしたの、初めてなんだー」

と、お嬢さんが教えてくれた。

そうなのか? 

「花見くらい…家族と一緒にすれば良いんじゃないのか?」

俺は、何気なくそう尋ねた。

しかし、その質問はお嬢さんにとって、あまり快いものではなかったようで。

「うん…そうだけど、でも私は…。…そんなことする機会はなかったから」

少し表情を曇らせて、そう答えた。

…この人がこんな表情するの、初めて見た。

聞かなきゃ良かった。

「そうか…。それは悪かったな」

「ううん…。桜なら、庭にもたくさん咲いてたから。わざわざ見に行く必要もなかっただけだよ」

「…」

庭に咲いてるから、物珍しくもないって?

俺が花見に行くって言ったらわざわざついてきて、穴場スポットまで知ってるくらいなのに?

…聞かなきゃ良かったな、本当に。

「これからは、毎年来れるよ」

気まずい質問をしてしまったことを謝る代わりに、俺はそう言った。

「本当?悠理君、一緒に来てくれる?」

「あぁ」

時間さえ空いてれば。いつでも付き合ってやるよ。

それが俺の役目だし、それに…。

今日一日、お嬢さんと花見して一緒に過ごして…。

…悪い気分じゃなかったからな。

お嬢さんの嫌いな食べ物が判明したときは、ちょっと辟易したけども。

まぁ、それはそれ、これはこれだ。

「じゃあ、じゃあ来年、また来ようね。またお弁当持って、一緒に」

めっちゃはしゃいでる。

「分かった。また来年な」

「やったー。桜、早く咲かないかなぁ」

「…今咲いてるけどな…」

一年あるからな。今からわくわくするのは、いくらなんでも早過ぎないか?

来年の約束なんて、今からしていて良いものだろうか。

俺はまだ、来年の自分が何処でどんな風に過ごしているのか、想像がつかないよ。