アンハッピー・ウエディング〜前編〜

夏休みに向けて、無駄にテンションの高い雛堂とは裏腹に。

我が家の寿々花さんは、特に夏休みの予定を立てるでもなく。

いつも通りと言うか…非常に大人しかった。

女子部の生徒は、夏休みと言えば。

避暑地の別荘で過ごしたり、小花衣先輩みたいに海外旅行の予定があるのが普通らしいけど。

今のところ寿々花さんに、そのような予定があるとは聞いていない。

寿々花さんは、夏休み…どのように過ごすつもりなんだろう?




「…寿々花さん。ちょっと聞いても良いか?」

「ほぇ?」

ある日の夕食後、俺は寿々花さんに尋ねてみることにした。

悪いな、積み木で遊んでるときに。

「悠理君、あのね。これエッフェル塔。エッフェル塔なんだよ。こっちが凱旋門」

「そうか。それは凄いな」

積み木を並べてフランスを再現するんじゃない。高校生にもなって。

しかし、フランスか…。椿姫お嬢さんが留学してる国だよな。

「行く予定でもあるのか?フランス…」

「ふぇ?誰が?」

どうやら、その予定は全くないらしい。

「いや…。もうすぐ夏休みだろ?」

「うん」

「どっか出掛ける予定があるのかなって思って」

「…」

俺がそう尋ねると、寿々花さんはしばし、無言で硬直し。

「…ううん。何も」

積み木を転がしながら、小さく呟いた。

…えっと。なんか俺、触れちゃいけない地雷にでも触れたか?

寿々花さんのテンションが、一気に下がってるぞ。

「よ、予定…何もないのか」

「うん。…ずっとおうちにいるよ」

そ、そう…。やっぱりそうなのか。

でも、何でそんな落ち込んだ顔してんの?どっか行きたかったのか?

「えっと…寿々花さん…」

「…悠理君は…」

え、俺?

「やっぱり、おうちに帰るの?」

「…」

おうちって…。実家にってことか?

「良いよ、帰っても。私、一人でちゃんとお留守番出来るから。悠理君がいない間、実家のお手伝いさんに来てもらっても良いし…」

「…」

「だから…私、一人でも大丈夫だよ」

…成程、そういうこと。

てっきり夏休みは、俺に置いてけぼりにされて、一人ぼっちでこの家で過ごすことになると思ってたから。

それで、夏休みの話題を敢えて避けてたって訳ね。…はいはい。

困った奴だよ、本当に。