アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「まぁ、何にせよ他の人には言い触らさねぇから、安心してくれよ」

それはどうも。

「大した秘密じゃなかったですしね。あまりに深刻な顔してるから、『実は自分は聖神ルデスの巫女で…』とか言い出すかと思ってたのに」

何だと?

じゃあ言ってやるよ。

「実は俺、聖神ルデス?の巫女なんだよ」

「…!なんと…まさか…!?」

驚愕に目を見開く乙無。

乗っかってくるんじゃねーよ。

「…あなたとは友人だと思っていましたが、どうやら袂を分かつ時が来たようですね。いくら友人であろうとも、僕は邪神の眷属としての責務を果たします。聖神ルデスの巫女は、一人残らず殲滅するようにとイングレア様から…」

「それにしても、これ美味いな。お嬢様の手料理やべーわ」

乙無の中二病発言を無視して、雛堂はタッパーの中身をパクパク食べながら言った。

もう、俺の秘密の話は終わりか?

敢えて話を変えようとしてくれてるのかもな。有り難い。

「そうだな。さすがに、小花衣先輩達の料理の方が美味いか…」

「美味いっちゃ美味いんだけどさ。でも、毎日食べたいのはどっちかって聞かれると、星見の兄さんの方だな」

…は?

「お嬢様方の料理の美味しさって、レストラン的な美味しさなんだよ。美味いけど、毎日食べたい味じゃないって言うか…」

「…褒めてくれるのは嬉しいけど、レシピは一緒だから、味も一緒だと思うぞ」

「いや、微妙に違うぞ?びっみょ〜にだけど」

…そうか?

まぁ、レシピは同じでも、使ってる食材や調味料、調理器具なんかは違うからな。 

細かい火加減や水加減、野菜の切り方も違っている。

その差が出てるんだろうか?

…微々たる差だと思うけど。

「なぁ。乙無の兄さんもそう思うだろ?」

「ルデスの巫女は、全員滅ぼさなければ。邪神イングレア様の名において…」

「巫女はいーから。星見の兄さんの手料理食えって」

まだ言ってんのか。乙無は。

そろそろ放置するぞ。

「良いから、って何ですか。僕にとっては、命以上に大事なことなんですよ」

「分かった分かった。星見の兄さんの手料理も大事だっての。美味い飯は重要だぞ」

「まぁ、確かに美味しいですけど。…悠理さんの手料理の方が、ちょっと薄味ですよね」

え、そうか?

言われてみれば…確かにそうかも。

元々、素材の味を活かすレシピだから、薄味の味付けなんだけど…。

俺自身があんまり濃い味好きじゃないから、つい薄味になってしまったのかも。

「僕はこっちの方が好きですけど」

「良い意味で所帯染みてる感があって、良いよな。手慣れてるって言うかー」

「…俺を褒めるんじゃなくて、小花衣先輩の方を褒めろよ」

「何だよ、照れちゃってんのか?」

ちげーよ、馬鹿。

小花衣先輩に感想言わなきゃいけないだろ。水曜日に。

その為に俺達に試食を頼んだんだろうし。

「でも、いくら濃い味で所帯染みてなくても、やっぱりお嬢様の手料理ってだけでポイント高いよな!」

「野菜の切り方とか盛り付けとか、丁寧ですもんね」

確かに。

雛堂の戯言は置いといて、盛り付けが丁寧なのは言えてるかも。

こういう点は、さすがお嬢様って感じ…。

よし、じゃあその点を褒めるよ。今度小花衣先輩に会ったとき。