アンハッピー・ウエディング〜前編〜

十分ほどかけて、俺はこれまで隠していたことを雛堂と乙無に話した。

誰にも話すつもり…なかったんだけどなぁ。

まぁ、そろそろ潮時ってことで…。

と言っても、何もかも全てを打ち明けた訳じゃない。

寿々花さんの名前は出していない。

あくまで、「新校舎の二年生に、親同士の決めた婚約者がいて、その人と一緒に暮らしている」と説明しただけだ。

寿々花さんの許可なく、彼女の名前を出すのはどうかと思ってな。

幸い雛堂も乙無も、寿々花さんの名前を尋ねてくるようなことはなかった。

具体的に婚約者が誰かということより、婚約者がいるということに驚いているようだった。

特に雛堂。ぽかんとして聞いていた。

一方の乙無は、何を聞いても、さして面白くもないみたいな顔をしていた。

興味ないか。悪かったな。

「…まぁ、だから、そういう訳だよ」

一通り話し終えて、俺はそう言って話を締めた。

「…マジかー…」

雛堂は、しばしぐるぐると視線を彷徨わせ。

「それって許嫁って奴?今時、親の決めた許嫁なんて存在するんだな。都市伝説だと思ってたわ…」

…確かに珍しいとは思うけど、都市伝説ってほどじゃないだろ。

少なくとも、無月院家みたいな名家では、珍しいどころか、むしろ当たり前のことだ。

「ふーん。まぁ、そんなところだと思ってました」

と、乙無。

「思ったよりつまらなくて悪かったな」

「全くですよ。別に隠すようなことじゃないでしょう」

そりゃそうだな。

邪神の眷属(笑)を口外して回ってる乙無に比べたら、俺の秘密なんて、秘密にするようなことでもないからな。

「つーか、姉じゃなかったのかよ。ってことはさては、妹がいるってのも嘘だな?」

口を尖らせる雛堂。

「え、あ、うん…」

「それならそうと、はっきり言えよ!」

…それは悪かったと思ってるけどさ。

でも、俺は自分に姉妹がいるなんて、一言も言ったことはないぞ。

雛堂が勝手に誤解して、納得していたってだけで。

「フィアンセかー。彼女いない歴=年齢の自分からしたら、少女漫画みたいで羨ましい話だけどさー…。実際は多分、そんなことないんだろうなー…」

「自分の意志に関係なく、大人達に勝手に決められた相手ですからね。しかも、相手方の方が立場が上ですから。悠理さんが一方的に気を遣わなきゃいけないでしょう」

「うーん…。星見の兄さん、あんた結構苦労してんのな。よしよし」

…突然労り始めた。

苦労ねぇ…。まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけど。

俺だって、この春寿々花さんのもとに来るまでは、随分憂鬱な気分になっていたものだ。

これから先の人生ずっと、無月院家の横柄なお嬢様の世話をし続けるのかと…。

でも、不思議と今は、そんな風には思わない。

何でだろうな?寿々花さんの人柄が分かったからだろうか。

我儘で贅沢で、頭が弱くて、手の掛かる面倒なお嬢様…のはずだったのに。

蓋を開けてみたら、寂しがり屋の、ただの世間知らずなお子様だった。

…な?拍子抜けするってもんだろう?