アンハッピー・ウエディング〜前編〜

調理実習があったのは知ってるよ。

小花衣先輩、うちの寿々花お嬢さんと同じクラスなんだから。

でも、その調理実習で作ったものが、何故ここにある?

いや、そもそも…。

男ばかりの旧校舎に、よく一人で女子生徒の小花衣先輩が入ってこられたものだ。

命知らずなのか?

「な…何でここにいるんですか…?」

「調理実習で作ったものを、悠理さん達に食べてもらおうと思ったのよ」

花を世話している時と同じ、にこやかな笑顔を浮かべてそう言った。

は、はぁ。

「何で俺に…?」

「一番最初に思いついたのが、悠理さんだったものだから」

…何故?

「…調理実習で作ったものは、その場で食べなきゃいけないことになってる…って聞いたんですけど…」

寿々花お嬢さんから。

家に持って帰ったりしちゃ駄目だって。そうなんだろ?

「えぇ。今日、昼休みの間に食べてもらわなきゃいけないの。だから、急いで悠理さんのところに持ってきたのよ」

「…」

「作ったものを他の人に試食してもらって、感想をもらうのが今回の実習の趣旨なの。協力してもらえるかしら」

小花衣先輩、にこにこ。

…そうなの?

俺も寿々花さんも、自分達で作ったものをその場で、自分達で消費しなきゃいけないと思って。

その為に、めちゃくちゃ頑張って好き嫌いを克服しようと…ここ二週間近くあの手この手を試してきたのに。

…もしかして俺も寿々花さんも、凄い間抜けな勘違いをしていたのでは?

「…自分達で食べるんじゃなくて、他の人に食べてもらうんですか?」

「?えぇ。だって自分達で食べたら、忌憚のない感想を聞かせてもらえないでしょう?」

そ、それはまぁそうなんだけど。

そんな料理コンテストみたいに、審査員に食べてもらってジャッジしてもらうのか?

てっきり、自分達で作って自分達で食べて、美味しく出来たねー、って皆で褒め合うものだと。

「良かったら、悠理さんのお友達方も一緒にどうぞ」

と、雛堂と乙無にも言った。

そして。

「それじゃあ、今度の水曜日また会うときにでも、感想を聞かせて頂戴ね」

言いたいことだけ言って、小花衣先輩は俺に紙袋を渡して、にこやかに去っていった。

…お見送りとか、しなくて大丈夫だっただろうか。

…遅いけどな。もう。

「…今の何だよっ!?」

しばらく誰もが無言だったが、突然息を吹き返したかのごとく、雛堂がそう叫んだ。

何なんだろうな。本当。

俺が聞きてぇよ、そんなの。

「星見の兄さん!いつの間にあんな、超絶美少女に手料理を渡される仲になってんだよ…!?」

胸ぐら掴みかからんばかりに迫られた。

何の誤解をしてるんだ?

「違うって!ただの委員会仲間だよ」

「本当か!?最近星見の兄さん、自分に内緒で勝手にハムスターランドデビューするわ、あんな美少女とお知り合いになってるわ、なんか抜け駆けが激しいんじゃねぇの!?」

知るかよ。

どれもこれも、俺のせいじゃないっつーの。