アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「えぇっと…。今日の残り物は、ペイザンヌサラダと…」

「…ぺいざん…!?何じゃ、そりゃ」

ペイザンヌサラダを知らなかったらしい雛堂。

大丈夫だ、雛堂。俺も知らなかったから。

今回寿々花さんにレシピを見せてもらって、初めて知った。

しかし。

「フランスのサラダですよね。卵やじゃがいもが入ったサラダ」

乙無は、ペイザンヌサラダを知っていたらしい。

よく知ってんな。さすが邪神の眷属。

「それから…こっちは、人参とアスパラガスのガトーインビジブル」

「がとー…いんじびぶる…!?」

インビジブル、な。インビジブル。

「何だよそれ。ガトーショコラとは違うもの?」

「違いますよ。確か、見えないケーキっていう意味です。スライスしたりんごを使ったケーキですけど、今回はりんごじゃなくて野菜で作ったみたいですね」

本当、よく知ってるな乙無。

俺より料理に詳しいじゃん。

「それから、こっちが野菜のテリーヌだ」

「おぉ、すげぇ。なんかゼリーみたい!」

「こちらもフランス料理ですね。本格的じゃないですか」

だろ?

このメニュー全部、同じものが今日、新校舎の家庭科室で作られてるんだぜ。

ついでにビシソワーズもな。

汁物は弁当にするのが難しいから、ビシソワーズは持ってこられなかったが。

代わりに。

「最後に、これがきのこのクリームパスタ…」

「めっちゃ美味しそう!星見の兄さん、おめーさてはシェフだな?」

お褒めに預かり光栄、ってね。

褒めてくれるのは嬉しいけど、全部寿々花さんに見せてもらったレシピで作ったものだから。

俺が褒められるのなら、今頃同じメニューを作っているであろう、新校舎の二年生全員を褒めなきゃいけなくなるぞ。

「いっただっきまーす」

遠慮なく、とばかりに。

雛堂は、俺の作ったサラダやガトーインビジブルを豪快に食べ始めた。

どうぞ。

「うめぇ。こんなシャレオツな料理、初めて食ったわ」

「そりゃ良かった」

「最早星見の兄さんは、何処にお嫁に出しても恥ずかしくないな!」

「…婿だけどな、俺…」

「へ?何か言った?」

いいや、何にも。

気にせず食べてくれ。

「うん、美味しい。さすがですね、悠理さん。食事の必要がない僕でも、悠理さんの作った料理は美味しく感じます」

と、乙無。

残り物でも、これほど喜んで食べてもらえると嬉しいもんだよな。

寿々花さんの好き嫌い克服プロジェクトは、今日で終わりだけど。

これからも、定期的に何か作ってきて、二人にも振る舞おうかな…と。

…思っていた、その時だった。

不意に、教室の扉がノックされた。

クラスメイトが皆、何事かと扉の方に視線を向けた。

すると。

「ごきげんよう、皆さん」

見覚えのある女子生徒が、そこに立っていた。