アンハッピー・ウエディング〜前編〜

そんな調子で、調理実習当日がやって来るまで、毎日。

寿々花さんの好き嫌い克服プロジェクトを、地道に進めていった。

実に大変な道のりだったよ。

また一緒にキッチンに立って、作るのを手伝ってもらったり。

嫌いな食材が入った料理を、宥めすかして食べてもらったり。

かと言って、毎日毎日嫌いなものばっかり食卓に並んだら、余計食欲が失せるだろうと考え。

苦手なものを食卓に出すのは夕飯だけと決めて、朝と昼は寿々花さんの好きなものだけを作ったり。

たまには息抜きをと、ケーキやアイスクリームを買って、おやつとして食べさせたり。

そりゃもう、色んな工夫をして頑張ったよ。

俺も頑張ったけど、一番頑張ったのは寿々花さんだからな。

嫌なこと、苦手なことを克服するのって、想像するまでもなく物凄く大変だからな。

きっと、何回も途中で投げ出したくなったと思うよ。

しかし、寿々花さんは素直で、そして努力家だった。

こういう点は、寿々花さんの長所だと思う。文句なく。

一度も投げ出すことなく、逃げ出すことなく、頑張って好き嫌い克服プロジェクトについてきたよ。

凄く偉いと思う。心から褒めたい。

…の、だが。

現実は、そんなに甘くない。

いつだって、努力が必ず実を結ぶとは限らないものである。

寿々花お嬢さんの必死の努力の甲斐もなく。

「…どうだ?」

「…うぇ」

「…あ、やっぱり無理か…」

吐くなよ、今ここで吐くなよ。

ゴミ箱持ってくるから、そこに吐いてくれ。

つーか、吐きそうなら無理して食べなくて良いから。

調理実習本番を翌日に控えた、日曜日の夕方。

この日俺は、寿々花さんが明日調理実習で作ることになっているメニューを、夕食として作って出した。

リハーサルじゃないけど。

これが食べられたら、明日はもう何の心配もなかっただろう。

しかし、そう上手くは行かなかった。

食卓の上には、寿々花さんが食べ残した料理のお皿が大量に残っていた。

これでも一応、全部一口以上は食べてるんだけどな。

最初の頃に比べたら、随分進歩したと言って良い。

とはいえ、やはり完食は無理だった。

まぁ、そうなるだろうと思っていた。

ここしばらく毎日行った、好き嫌い克服プロジェクトのお陰で。

苦手なものでも、何とか口に入れることが出来るようになってきた寿々花さんだが。

それだけで好き嫌いが克服出来るなら、こんなに苦労してないってな。

特にきのこは駄目だった。

ニンジンとかピーマンは、かなり克服出来てきたんだよ。

星型じゃなくても、千切り程度なら食べれるようになってきたしな。

でも、きのこはどうしても受け付けないらしく。

今夜作った、きのこのクリームパスタも…一口だけ食べて、あとは放置されていた。

これは本当に無理なんだな。きのこだけは。

俺は美味しいんだけどな。

今日、寿々花さんが明日調理実習で作るレシピの通りに作ってみて、実感したよ。

このレシピって、結構素材の味を活かすタイプの、薄味レシピなんだよな。

味付けもシンプルに塩胡椒のみ、とか。

子供っぽい濃い味付けをすることで、好き嫌いを克服しようとしていた寿々花さんにとって。

このようなシンプルな味付けは、見た目以上に食べにくいんだと思う。