アンハッピー・ウエディング〜前編〜

…調理開始から30分程。

「こねこね。こねこねー」

ちらりと横を見ると、寿々花さんはこねこね言いながら、ボウルの中身を捏ねていた。

口に出さなくても、頭の中で言って良いぞ。

ちなみに、ボウルの中身は挽き肉である。

挽き肉を捏ねる、無月院家のお嬢様…。

冷静に考えると、なかなかシュールな光景だよな。

無月院本家の当主が見たら、何と思うことか。

でも、料理くらい出来たって、悪いことは何もないと思わないか?

「悠理君、捏ねたよー」

手を挽き肉の脂でべったべたにして、寿々花さんが振り向いた。

宜しい。

「それじゃ、さっき切ったピーマンに、その挽き肉を詰めてくれるか」

「詰める?…うん、任せてー」

「ちょっと待て、違う。挽き肉でピーマンを包むんじゃない。ピーマンに挽き肉を詰めるんだよ」

斬新なピーマンの肉詰めを作ろうとするんじゃない。

つーか、それもうピーマンの肉詰めじゃない。

チーズインハンバーグならぬ、ピーマンインハンバーグになるところだった。

あれ?それはそれで美味しそうな気がする…?

しかし、今回作りたいメニューとは違うからな。

「こうやって、小麦粉をまぶしたピーマンの中に挽き肉を詰めるんだよ。あんまり詰め過ぎるなよ」

俺は自分の手でやって見せながら、寿々花さんに説明した。

「成程ー。悠理君は器用だね」

「…このくらい、誰にでも出来ると思うけど」

「ピーマンの中にお肉を詰めるなんて、斬新な発想だね。さすが悠理君」

褒めてくれるのは嬉しいけど、別に俺が考案したレシピじゃねーから。

昔からあるレシピだろ。ピーマンの肉詰め。

「詰め詰め。詰め詰めー」

「…」

鼻歌交じり詰め詰め言いながら、寿々花さんはピーマンに挽き肉を詰めていった。

…ただし不器用だから、あちこちに挽き肉が散ってる。

あー、もう…。後で拭かないとな。床と調理台…。

口を出すのはやめておこう。本人楽しそうだし…。

「悠理君、出来たー」

「はいはい、ありがとう」

「もう完成した?」

とんでもない。

まだ生肉の状態だからな。その挽き肉。

「これから焼くんだよ。食材全部ナマだから、火を通さないとな」

「おぉ。何だか本格的だねー」

「…本格っつーか…。普通のピーマンの肉詰めだけどな…」

じゃあ、焼いていこうか。 

油を引いたフライパンの上に、さっき寿々花さんが挽き肉を詰めてくれたピーマンを並べていく。

火をつけて、しばらくそのまま放置。

「その間に、調味料を準備しようか」

「うん、するー」

いつもなら、シンプルに塩胡椒だけで味付するのだが。

今回は雛堂のアドバイスに従って、甘い、濃い目の味付けにしてみようと思う。