…何とか、遅刻はギリギリ免れたものの。



昼休み。

「あれっ。星見の兄さん、今日コンビニパン?珍しー」

「…まぁな…」

とてもじゃないけど、お弁当作ってる余裕なくてさ。

学校に来る途中のコンビニに駆け込んで、値段も種類も見ずに、手近にあったパンを掴んでレジに持っていったよ。

新校舎の方だったら、学校の中にベーカリーやカフェテリアがあるから、お弁当なくても困らないんだろうけど。

旧校舎だと、そうも行かないからなぁ。

「抹茶メロンパンに、抹茶クリームパン、抹茶チョココロネですか…。悠理さん、抹茶好きでしたっけ?」

乙無が、俺の買ってきたパンを見ながら聞いてきた。

「…別に、そういう訳じゃねぇよ」

これは事故だよ。

コンビニのパンコーナーで、偶然抹茶フェアをやってただけ。

種類を選んでる暇がなかったら、適当に選んだら全部抹茶味だった。

別に抹茶が好きって訳じゃないのに。

「いつもの手作り真心弁当はどうしたよ?」

「ちょっと…今日は寝坊して、弁当作ってる時間がなかったんだ」

お陰で、寿々花さんも今日は今頃、久し振りにカフェテリアでランチしてるんだろうな。

誠に不甲斐ない。

「寝坊!星見の兄さんが寝坊とか、めっちゃ珍しいな。何々?昨日の晩えっちな映画でも観てた?」

この下衆野郎め。

「ちげーよ、勝手に変な誤解すんな。昨日一昨日と旅行に行ってて疲れてたから、うっかり寝過ごし…」

「え、旅行!?」

…しまった。失言だった。

いや、でもどうせ…雛堂と乙無にもお土産渡すつもりだったから、どっちみち隠してもバレるか…。

「もしかしてアレか。前言ってた。ハムスターランドか?お姉ちゃんと一緒に行ってきたのか?」

…姉じゃねーけど。

「…そうだよ。俺も一緒に来てくれ、って誘われて…それで」

「お姉ちゃんと仲良くハムスターランド旅行とか、おめーシスコンかよ?」

うるせー放っとけ。シスコンじゃねぇ。

仲が良かったら、姉と一緒に旅行くらい行く…もんじゃないの?

俺、兄弟いないから分からないけど…。

「しかも、ハムスターランドだと!?抜け駆けしよって、このー!ズルいぞ畜生!」

そんなこと言われても…。俺だって突然誘われたんだから。

この分じゃ、ランドホテルのスイートルームに泊まったことは言わない方が良さそうだな。

雛堂の嫉妬が爆発してしまう。

「良いなぁ、良いなぁ。楽しかった?」

「まぁ…それなりにな」

「やっぱ良いなぁー!」

…既に、嫉妬爆発してるようなもんだけど。

「それで旅行疲れで寝坊かよ!贅沢な奴め」

「そういえば今朝、珍しく遅刻ギリギリに教室に駆け込んでましたね。あれはそういうことだったんですか」

「あぁ…」

間に合って良かったよ。

あと5分でも長く寝過ごしてたら、確実にアウトだったな。

寿々花お嬢さんは間に合ったんだろうか。

俺が間に合ったんだから、多分寿々花さんも大丈夫だと思うけど…。