…翌日。

「ん…」

カーテンの隙間から差し込んでくる朝日で、俺は目を覚ました。

そして、視界いっぱいに飛び込んできた、豪華な壁紙の貼られた天井を見て。

ここは何処なのかと、一瞬考えた。

…そうだ、思い出した。

ここは、ハムスターランドホテルのスイートルーム。

俺と寿々花さんは今、ハムスターリゾートに旅行に来てるんだった。

今日は二日目だな。

枕元の時計を見ると、そろそろ良い時間だった。

今から起きて着替えて、身支度を整えて。

朝食ビュッフェでゆっくり食事したら、そのままハムスタースカイに行けるな。

じゃ、起きるか。

俺はふかふかのベッドから起き上がった。

なんか節々が痛い気がするけど、これは多分筋肉痛だな。

昨日、ハムスターランド内を動き回ってたもんなぁ…。

今日もたくさん歩くんだろうな。

今更だけど、履き慣れたランニングシューズを履いてきて本当に良かった。

こんなところまで来て、慣れない靴で靴ずれを起こしたら。目も当てられないもんな。

…さて、それはさておき。

「寿々花さん。あんたもそろそろ起き…。…えっ!?」

隣のベッドを見て、俺は驚愕した。
 
一瞬にして眠気が覚めた。

寿々花さんは、いなかった。

あの人のことだから、寝穢く、まだ寝てるんだろうと思っていたのに。

ベッドの上は空っぽで、寿々花さんの姿はない。

えっ…嘘だろ?

何処に行ったんだ、あの人。

まさか今日に限って早起きして、部屋から出ていってしまった訳じゃないよな?

俺は毛布を払い除けて、慌てて立ち上がろうとした。

そしてそのとき、寿々花さんの姿を見つけた。

…床に。

「…」

あんまりびっくりして、俺はそのまましばらく固まってしまった。

…早起きして、勝手に近くを観光しに行っている…なんてことはなかった。

俺の予想通り、ちゃんと寝穢く寝てたよ。いつも通り。

…床でな。

寿々花さんはベッドの上ではなく、床の上で毛布にくるまって。 

さながらイモムシみたいな格好で、間抜け顔で寝息を立てていた。

多分…いや絶対、夜中にベッドから墜落したものだと思われる。

…畜生、一瞬だけだったとはいえ、心配させやがって。

つーか、寝相悪っ…。夢の中でもコロコロしてんのかよ。

寿々花さんが普段、ベッドじゃなくて寝袋で寝てる理由はこれなのかもしれない。

このお嬢様、壊滅的に寝相が悪い。

ハムスターランドホテルのスイートルームに泊まってるっていうのに、床で寝る奴があるかよ。

「…こら。おい、そろそろ起きろ」

俺は床にしゃがみ込んで、寿々花さんを揺り起こした。

「んー…。むにゃむにゃ…」

「朝だぞ。ハムスタースカイ、行くんだろ?」

「…すぴー…」

…駄目か。

簡単には起きてやらんぞ、という強い意志を感じる。

声をかけても揺すっても、熟睡している寿々花さんには効き目がない。

さて、どうやって起こしたものか…。

強引に起こしても良いんだけど、旅行先に来てまで、そんな強引な方法で起こすのもな…。

仕方ない。…こうなったら。

俺は、部屋の隅を指差してこう言ってみた。

「…見ろよ、寿々花さん。あそこ、ハムッキーがひまわりのタネを追いかけてるぞ」

「ほぇ?何処に?」

…案の定、効果てきめんだった。