アンハッピー・ウエディング〜前編〜

凄いよなぁ。ハムスターランドホテルのスイートルームのバスルーム。

何もかもが高級感に溢れていて、風呂入ってるだけで王様の気分になる。

それでも、これが現実だと認識出来るのは。

目の前に、寿々花さんが貸してくれたアヒルの玩具が、ぷかぷか浮かんでいたからだ。

このアヒルがいい感じに、俺に日常を思い出させてくれるって言うか…。

ごめん。もう何言ってんのか分かんねぇな。

疲れてるのかもしれない。

そりゃ一日中ハムスターランドをうろうろしたら、疲れるのも当然だよ。

「あ、悠理君だ。お帰りー」

「ただいま…」

風呂から上がってみると、寿々花さんはベッドに腰掛け。

足をぶらぶらとさせながら、大人しく待っていた。

…ベッドねぇ。

ツインベッドなんだけど、一つのベッドがキングサイズかってくらい大きくて。

頑張ったら、5人くらい一緒に寝られるんじゃね?

…まぁ、そんなことはどうでも良いんだけど…。

…そろそろ、目を背けていた事実に向き合わなきゃいけないような気がする。

「ふわぁ〜…」

寿々花さん、お嬢様らしからぬ大あくび。

あんた、お嬢様だろ。せめて手で隠しなさい。

「何だか眠いね。今日、いっぱい歩いたからかな?」

「…朝も早かったからな。明日も早いし、今日は夜更かし厳禁だな」

「そうだね。ちょっと早いけど、もう寝よっか」

それが良いかもな。

折角のスイートルームなのに、早々に寝てしまったら勿体ないかもしれないが。

明日も早めに起きて、ホテルで朝食を取ったら。

明日は今度は、ハムスターランドに隣接する、ハムスタースカイというパークに遊びに行く予定である。

勿論、入園料は椿姫さんのくれた優待チケットに含まれている。

大盤振る舞いだな。

「じゃ、私こっちのベッドで寝るね」

そう言って、寿々花さんは座っていたベッドに、ごろんと大の字に寝そべった。

「いつも寝袋だから、ベッドで寝るの久し振りだなー。コロコロ出来るよ、ほら。コロコロ」

ベッドの上を右に左に、コロコロと転がって遊んでいる。

お行儀の悪いお嬢様だよ。

つーか、あんたは何でいつも寝袋で寝てんの?

…帰ったら、速攻ホームセンターに走って、寿々花さんのベッドを注文しよう。

「…それは良いとして、寿々花さん。ずっと気になってたんだけど…」

…ずっと、目を逸らしていたんだけど。

あんたがそっち側のベッドで寝るってことは、俺は反対側のベッドに寝る…ってことだよな?

それはつまり、今夜一晩、俺と寿々花さんは一つ屋根の下、同じ部屋で…。

…この部屋で、一晩一緒に夜を明かすってことだよな?

…。

…めちゃくちゃ大胆なことしてるよな。俺。

こうなるのが嫌だから、俺じゃなくて、学校の同級生と一緒に行って欲しかったんだよ。

何もするつもりはないよ?つもりはないけど。

でも、下手な誤解を受けるかもしれないことは、最初からしない主義なんだよ。俺。

今からでも良いから、俺はこの部屋から出ていって。

何処か近場の、カプセルホテルにでも泊まった方が良いのでは?

…空いてるかな、カプセルホテル…。

一緒に暮らすようになって、2ヶ月とちょっと。

毎晩同じ家で眠っているけれど、同じ部屋で眠ったことはない。当たり前だが。

男と同室に泊まるっていうのがどういうことなのか、このお嬢様はちゃんと理解しているのだろうか。