アンハッピー・ウエディング〜前編〜

寿々花さんが風呂から戻ってくるまで、俺は落ち着かない様子で部屋の中を見渡していた。

何回見ても慣れない。自分がここにいるんだっていう自覚が持てないよ。

今すぐホテルマンが部屋を訪ねてきて、「手違いでしたので出ていってください」と言われても、全く驚かないだろう。

「あっ、はい分かりました」と言って、大人しく出ていくよ。

それでも充分だ。ほんの一時間でも、ハムスターランドホテルのスイートルームを見せてもらったのだから。

一生に一度、見られたら幸せだよなぁ、

やっぱり俺、明日空から降ってきた槍に貫かれて死ぬんじゃね?

…しかし、俺はまたさっきから。

大事なことから、重大な現実から目を背けているような気がする。

すると、そこに。

「悠理君、お風呂上がったよー」

「あ、うん。お帰り…」

戻ってきた寿々花さんは、今度はちゃんと服を着ていた。

…相変わらず、俺の中学の時のお古ジャージを。

あんた、旅先でもそれを着るのかよ。

ハムスターランドホテルのスイートルームで、お古ジャージを着て寝る奴があるか。

釣り合わねぇ〜…。何だ、そのみっともない格好は。

それなのに、寿々花さんは全く気にしていなかった。

「悠理君もお風呂入っておいでよ。ぶくぶくしてて面白かったよ」

とのこと。

「はいはい、分かった。俺も風呂入ってくるよ」

「アヒルさん、貸してあげるね。はい」

…要る?それ。

でも、寿々花さんが好意で貸してくれるって言ってるんだから。

有り難く借りておくよ。

「部屋の中にいろよ。ちょろちょろ出ていくんじゃないぞ」

「うん、分かったー」

…大丈夫だろうな?

別に部屋を出ても良いんだけど、その格好で出るなよ。

俺は見慣れてるからまだしも、その格好じゃあ、みっともないにも程があるからな。

…出来るだけ早めに、風呂を済ませるとしよう。