アンハッピー・ウエディング〜前編〜

食事の後。

俺と寿々花さんは、今夜宿泊するホテルに向かった。

ハムスターランドに隣り合うようにして建っている、デラックスタイプのハムスターランドホテルである。

しかも、聞いて驚け。

客室、スタンダードじゃないからな。

なんと、スイートである。

普通のホテルだって、スイートルームに宿泊したことはおろか。

こんな上の階に、足を踏み入れたことすらなかったのに。

人生初のスイートルームが、ハムスターランドホテルのスイートルームなんて。

…俺、明日隕石にでも当たって死ぬんじゃね?

若いうちから、こんな贅沢を覚えちゃいかんな。

何もかもが豪華で高級で、眩しくて。逆に居心地が悪いまである。

豪華絢爛とはこのことだな。

一泊で一体いくらなのか、想像も出来ない。

知らない方が良いよ。もし知ってしまったら、あまりの分不相応に、廊下に飛び出して廊下で寝ようとするだろうから。

椿姫お嬢さん、奮発するにも限度ってものがあるだろ。

妹の誕生日に、ハムスターランドホテルスイートルーム付き優待チケットを、ペアでプレゼントするなんて。

俺も、そんな金持ちの姉を持ってみたかったよ。

見てみろよ。この部屋。まるで王様の部屋だぜ。

ベッドだってさぁ…。まるで宮殿の寝室のような…。

…ん?ベッド?

ハムスターランドのスイートルームに感激…してるのは良いが。

俺は何か、大切なことを忘れてるんじゃないだろうか。

「悠理君、私お風呂入ってくるねー」

「あ、うん…。行ってらっしゃい」

寿々花さんは、俺のように、この部屋の豪華絢爛さに感動することもなく。

いつも通り、家にいるときと同じように振る舞っていた。

ハムスターランドホテルのスイートルームに宿泊してもなお、全く感動がないとは…。

あの人、もしかして結構大物?

さすがは無月院家のお嬢様。高級ホテルのスイートルームくらい慣れてる、ってか?

…いや、単にどんな部屋でも気にしていないだけなのかもしれない。

寿々花さんのことだからな。有り得る。

全く罰当たりな人だよ。折角、椿姫お嬢さんが一番良い部屋を用意してくれたのに…。

「悠理君、悠理君」

「うわっ、びっくりした」

お風呂に行ったはずの寿々花さんが、ひょこっと顔を覗かせた。

…下着姿で。

慌てて目を逸らしたけど、ばっちり見てしまった。

アホかよ、この人は。

「なんつー格好でうろうろしてんだよ!」

「お風呂がねー、凄いの。ぶくぶくが出るんだよ」

部屋の豪華さには無反応だったのに、ジャクジーバスに感動している。

大事か?そこ。

俺もジャクジーバスなんて初めてだけどな。

「良いから、分かったから!早く風呂入ってこい」

「ぶくぶくしてて楽しいよ。悠理君、一緒に入る?」

「…冗談だろ…」

何を言い出してるんだ。正気か?

「そっかー。じゃあ、アヒルさんと一緒に入ろーっと」

寿々花さんは、スーツケースから玩具のアヒルを取り出し。
 
それを持って、いそいそとバスルームに向かった。

…いつの間に持ってきてたんだ?そんなもの。