…お嬢様の寝室かよ?これが。

床にまるまった寝袋以外、何もない。

ハムスターランドに行く前に…まずは、ホームセンターか何処かで家具を買ってくるのが先なんじゃね?

こんなところで寝ていたとは…。

あんたはそれで満足なのかよ。

「…おい、起きろって」

気を取り直して、俺は床で丸まっている寿々花さんに声をかけた。

なんか、やけにごわごわした寝袋だな。

俺、自慢じゃないけど寝袋で寝たことないんだよ。

いかにも寝心地悪そうな気がするんだけど、そうでもないのだろうか。

床にしゃがんで寿々花さんを揺り起こそうとして。

そのとき、寿々花さんの寝袋が、やけにごわごわしている理由が分かった。

狭っ苦しい寝袋の中に、ブランケットを抱き枕みたいに抱き締めて寝ていた。

…俺が誕生日にプレゼントした、あのブランケットを。

それ…抱いて寝てたのか?

抱き枕じゃないんだけど…。

「…」

…なんつーか、その姿が何となく、こう…いじらしく見えて。

文句が言えないのが辛いところ。

と、思っていたら。

「むにゃむにゃ…。ゆーり君…。そんなところ…。そこは触っちゃらめ〜…」

何の夢見てんの?

俺に対する風評被害やめろ。

いじらしいとか思ってたの、撤回するよ。

「こら、起きろ。何の夢を見てんだよあんたは!」

「ゆーり君、そこ、そこは…。…そんなところ入っちゃ駄目…。電子レンジの中…」

「電子レンジの中…!?」

あんたの夢の中で、俺は何をしようとしてるんだよ。

一刻も早く起こさなければ。

寿々花さんの夢の中で、俺が電子レンジに入る前に。

「こら、いい加減起きろって!」

「むにゃむにゃ…。…むにゃ?」

ぱちん、と目を開けた。

…起きたか。

「…朝だぞ。早く起きろ」

「…悠理君だ」

寿々花さんは、寝覚めに俺の姿を見ても、特に驚くことなく。

いつものとぼけた顔で、じっとこちらを見つめた。

…めっちゃ眠そう。

「勝手に寝室に入って悪かったな。でも、早く起こさないと不味いと思って」

「…?何で?」

何でって、あんた忘れたのか。

「今日、ハムスターランドの日だろ?」 

「…!」

俺の口から「ハムスターランド」の言葉を聞くなり。

眠そうにぽやんとしていた寿々花さんが、突然目をぱっちりと開けて覚醒。

どうやら、思い出したようだな。

「そうだった。さっきまで見てた夢が面白くて、忘れるところだったよ」

「…何の夢を見てたんだ?」

「え?うーんとね、アンドロイドが深海魚水族館にデートしに行く夢」

「…俺の夢は…?」

さっきまで、俺の名前呼んでなかった?

…あぁ、もう気にしないことにしよう。