アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「…何やってんの?」

「もうすぐ出来るよー」

何が?

俺を毒殺する薬か何か?

よく見たら、異常なのはキッチンだけではない。

リビングの床一面に、桜の花びらが散らばっている。

何処から舞い込んできた?この桜の花びら。

確かに今、丁度桜の季節だけども。

何故桜の花びらが、家の中に散らばっているのか。
 
全く意味が分かりません。

「これをどんぶりに入れて、それから飲み物は…はい」

「…」

お嬢さんは、グラスに入れた謎の真っ黒の液体を俺に手渡した。

…何これ?

なんかこう…暗黒の世界の飲み物?

生臭いような酸っぱいような苦いような、色んな匂いがするんだけど。

これを飲めと?俺に死ねと?

お前、家事もやらずに半日家を留守にしやがって、というお嬢さんから俺への罰のつもりなのか?

床に散らばってる花びらも、全部お嬢さんの仕業なのか?

俺に対する嫌がらせ…?

更に。

「はい、こっちもどうぞ」

紫色の煙を発する、謎の液体と固形物が入ったラーメン用のどんぶりが、俺の前に差し出された。

これでとどめを刺すつもりか?

絶対、人間が口にして良いものじゃないと思う。

と言うか、生き物が口にしちゃいけないものだ。

本能で分かるもん。これは危険だ、今すぐ逃げろ、って本能が訴えかけてくる。

これはヤバいブツだ。

家の中はしっちゃかめっちゃかだわ、キッチンの床も調理台もシンクも、紫色に汚れた調理器具が山積みだわ。

目の前には、とても口に出来そうもない毒物が並んでるわ。

おまけに、それを用意したであろうお嬢さんは…。

「頑張って作ったんだー」

…何故かドヤ顔だわで。

俺の堪忍袋の緒が、プチッと音を立てて切れた。
 
「…ちょっと、そこに座れ」

「え?」

「良いから座れ」

これが、この家に来て記念すべき最初の…。

これから何年にも渡って繰り広げられることになる、お嬢さんへの説教であった。