アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「畜生。こんな不平等信じられるかよ?自分も同じ小学校だったんだぜ?それなのに、今年から新しい試みとして、修学旅行の行き先を変更することにしたんだってよ」

「へぇ…そんなことあるのか」

「これまで毎年、修学旅行と言えば京都と奈良に行って、つまんねぇ寺巡りして、湯豆腐食わされて、大仏見て、鹿に襲われるのがお決まりのコースだったんだぜ?」

つまんねぇは言い過ぎだろ。

興味なかったらつまんないかもしれないけど、あれはあれで見るべき価値があるものだと思うぞ。

それに、湯豆腐だって良いじゃん。美味しいし。京都っぽいし。

俺なんか修学旅行で京都行ったとき、旅館で出された晩飯、カレーだったぞ。

子供が来るからと思って、わざわざ食べやすいものを用意してくれたんだと思うよ。

しかも、超甘ったるいカレーだった。

辛いカレーは子供が食べられないと思ったんだろうな。分かるよ。

その気遣いは有り難いけどさ。折角京都に行ったんだから、もう少し京都っぽいものが食べたかった。

家でも食べれるじゃん。カレー。

何で京都まで来て、カレーを食べなきゃいけなかったのか。

…まぁ、湯豆腐も家で食べれるだろって言われたら、そうなんだけど。

でも、スーパーで安売りしてる豆腐で作った湯豆腐とは、やっぱり違うだろ?

本場(?)の湯豆腐って感じで。

「自分だって東京行きたかった。タワー見てハムスターランドで遊びたかったよ」

「そうか…。まぁ、遊びに行くには首都の方が良いよな…」

「畜生。ズルくね?ズルくね?今年の小学六年生全員ズルくね?」

そりゃあんたの母校の話だろ。

俺の母校は、多分今も京都に修学旅行に行ってる…。…の、かなぁ?

俺が知らないだけで、今頃俺の母校も、修学旅行の行き先が変わって。

もっと楽しそうなところに…それこそ、雛堂の母校みたいに、東京や大阪に遊びに行ったりしてるのかも。

そういうことは、知らない方が良いことだな。

知ったら絶対羨ましくなるし。

雛堂と一緒になって、これだから近頃の若者は、と老害じみた文句を言い合うことになるところだった。

「しかもさぁ、お土産代。自分のときは五千円だったんだけどさ」

お土産代?

俺のとこも五千円だったわ。小学生の時は。

中学の修学旅行のお土産代は、一万円くらいだった。

「東京は物価が高いからーって、今年から一万円に増額されてるんだわ」

「へぇ…。それは羨ましいな」

「ガキに万札持たせるなんざ、十年はえぇよ!」

その理屈で言うと、俺と雛堂も万札持てないことになるけど、良いのか?

そうか…。修学旅行の行き先も変わり、お土産のお小遣いも2倍…。

「チビが修学旅行楽しみ〜とか言う度に、憎しみで舌打ちしたくなるわ」

「…」 

理不尽な怒りなんだってことは分かってるよ。

大人気ないということも、百も承知。

でも…雛堂の気持ち、分からなくもない。

女子部の入学時京都旅行オリエンテーションだって、充分妬まし…いや、羨ましかったけどさ。

あれは、「あの人達はお嬢様だから」で納得出来るじゃん。

でも、雛堂の場合は…自分の弟だろ?

自分はつまらない修学旅行だったのに。

その数年後、自分の弟の修学旅行は自分より遥かに恵まれてて、楽しそう…ってことになったら。

そりゃ妬ましい気持ちにもなるだろう。人間として当然だと思う。

雛堂が愚痴るのも分かるよ。

俺だって雛堂の立場だったら、「東京旅行?けっ」くらい思ってたと思う。