アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「…何て書いてあるんだ?これ…」

見せてくれたのは良いけど、ほぼ読めてないから意味がない。

かろうじて、冒頭の挨拶…。元気にしてますか?って書いてあるのは読めた。

でも、それ以上は無理。

「お誕生日おめでとうって書いてあるよ。それから私の近況を尋ねて…。自分の近況も書いてるね」

寿々花さん、これ読めるんだな。さすが。

「フランスでの生活がああでこうで…って」

「そんなこと書いてあるのか…」

「留学先の学校で、同じく留学中のイタリア人の女の子と仲良くなって、その子からイタリア語を教えてもらってるんだって」

「…」

フランスに行って、イタリア人の友人にイタリア語を習ってんの?

すげーよ。さすが椿姫お嬢さん。スケールが違う。

俺なんて、日本に生まれて日本の友人と日本語しか喋ってない。

それで良いじゃん。なぁ?お洒落な外国の言葉なんて知ってても、使う機会がないし。

「それから…これ」

と言って、寿々花さんは封筒に入っていた、二枚の紙切れ…チケットみたいなものを取り出した。

…?

「これを送るから、楽しんでおいでって」

「何だ、それ?」

「私にもよく分からない。テーマパークの優待チケットだって」
 
テーマパークの優待チケット?

…どれ、ちょっと見せてくれ。

俺は、寿々花さんの持つ二枚のチケットを覗き込んだ。

よくよく見てみると、それは。

「これ…ハムスターランドのチケットじゃないのか?」

俺も初めて見るから、確かなことは言えないけど。

ハムスターランド特別優待チケット、って書いてある。

「ハムスターランド?」

国内の有名なテーマパークだよ。

俺は行ったことないけどな。

「ほら、あの有名なハムスターのキャラクターがいるところだよ。ハムッキーとハムッフィーの」

「ハムスターがいるの?動物園みたいに?」

「いや、動物園じゃなくて遊園地だろ?」

俺も行ったことないから、よく知らないけど。

有名なんだろ?色んなアトラクションがあって、パレードとかもやってて。

一生に一度くらいは行ってみたいけど、ああいうのは仲良しグループとか恋人と一緒に行くところであって。

俺には全く縁がない。

修学旅行で行ったことがあるって人も多いけど、俺の修学旅行は京都だったからな…。 

「これが誕生日プレゼントだって。誰か親しい人を誘って、一緒に行っておいでって、お姉様が」

へぇ。良いお姉さんじゃないか。

無月院本家の人間で、唯一まともな人だというのは本当だったらしいな。

妹の誕生日に、わざわざフランスから手紙を送り。

更に、こんな気の利いた誕生日プレゼントを同封してくれるとは。

…気の利いたプレゼントなのか?これ。

まぁ、もらったもんなんだから、有り難くもらっておけば良いじゃん。

少なくとも、シャボン玉よりは気の利いたプレゼントだと思うぞ。

…そうだというのに。

「こんな紙切れより、シャボン玉の方が良かったな…」

寿々花さんは、どうでも良さそうに優待チケットを眺めていた。

…あんたな。そんな罰当たりなこと言って。

今頃お姉さん、泣いてるぞ。

紙切れのように見えるけど、ただの紙切れじゃないんだよ。