アンハッピー・ウエディング〜前編〜

初めてのフランスからの国際郵便に、目を丸くしている俺をよそに。

寿々花さんは、何の躊躇いもなく手紙を開封した。

まるで、毎月届く請求書を開けるみたいに。

「…寿々花さん、あんたフランス語なんて読めるのか?」

「え?うん」

…マジで?

寿々花さんって、めちゃくちゃ頭良いのは知ってたけど。

フランス語なんて読めるのか?凄くね?

俺より遥かにポテンシャル高いぞ。

「あんた、意外な特技あるよな…」

「?特技じゃないけど…。え?悠理君は読めないの?」
 
お?何だ。マウントか?

生憎俺は、外国の知り合いなんて一人もいないからな。

何なら、県外の知り合いさえ数えるほどしかいない。

「読めないよ。全然」

「でも、学校で習うでしょ?フランス語の授業で」

女子部って、そんな授業があるの?

英語以外の外国語を?

さすがお嬢様学校。

「生憎男子部は、平民の集まりだからな…。そんなお洒落な授業はないんだよ」

「…??そうなんだ」

首を傾げながら頷く寿々花さん。

良いよ、別に。フランス語の授業なんかなくたって。

英語を勉強するだけでも手一杯なのに。

これ以上、ろくに分かりもしない外国語の授業なんか増やされたら、勉強するのが大変だから。

平民万歳。

「と言うか俺は、寿々花さんにフランス人の知り合いがいることに驚いたよ…」

学校の友達…じゃないよな?

友達はいないって言ってたし…。

寿々花さんの文通相手、とか?

外国の友人と文通なんて、いかにもお洒落だよな。

しかし、そういうことではなかったらしく。

「知り合い…じゃなくて、フランスからのお手紙ってことは、多分…。…あぁ、ほら」

「?」

「…お姉様からだよ。ほら、ここ」

寿々花さんは、封筒の差出人の名前を指差した。

よく見たら、差出人の名前もローマ字で書いてある。

えぇと…つばき、むげついん…って書いてあるから。 

無月院椿姫…。寿々花さんの姉さんの名前だ。

それ、椿姫お嬢さんからの手紙だったのか。

成程、これで合点が行った。
 
フランス留学中の、寿々花さんの姉さん…。椿姫お嬢さんが、手紙を送ってきてくれたのだ。

何も、寿々花さんの個人的な友人がフランスにいるって訳じゃなかったんだな…。

…いや、それはそれで、やっぱりお洒落じゃね?

俺も言ってみたいよ。「外国に留学している姉から国際郵便が届いてさー」って。

…そんなに気さくに話せる兄弟仲だったら、の話だけどな。

「そうか。お姉さんから…良かったな」

家族から手紙をもらったら、誰でも嬉しいだろう。

しかし寿々花さんは、折角お姉さんから手紙を受け取ったというのに、それほど喜んでいるようには見えなかった。

さっきまで、シャボン玉で遊んでたときの方がずっと楽しそうだった。

フランスにいるお姉さんからの手紙は、電動シャボン玉ステッキに負けるのか?

今頃椿姫お嬢さん、泣いてると思うぞ。