「わー、わー、見て見て、凄い。ボタンを押すだけでシャボン玉がいっぱい出る…!」

寿々花お嬢さん、大興奮。

正直なところ、俺もちょっと凄いなって思った。

口で吹かなくても、ボタンを押すだけで細かいシャボン玉が大量に噴き出している。

「ボタンを押してモードを切り替え…と。あ、見て。今度はおっきいシャボン玉だ」

「本当だな…」

モード切り替えなんかあるのか。

ボタンを押して切り替えると、細かなシャボン玉から、大きなシャボン玉に変わった。

「もう一回ボタンを押したら…。見て、ハート型だ」

「へぇ、凄いな…。最近のシャボン玉の玩具って、そんなことも出来るのか…」

意外とクオリティ高いんだな。シャボン玉の玩具。 

どれも同じだと思ってたから、機能なんてよく見ずに買ったんだが。

値段の割に、意外と優れものだったりする?

…って、そんなこともどうでも良いんだって。

何乗せられてるんだよ、俺は。

「キラキラだね。宝石が飛んでるみたいだよ。ほら、ほら」

ステッキを左右に振りながら、次々にシャボン玉を吹き出して遊ぶ寿々花さん。

ごめんな、楽しんでるところ申し訳ないんだけど。

「これ、ポストに入ってたぞ。あんた宛てに手紙だ」

「あ、止まった。…泡が切れちゃった…」

「話を聞け。ほら、泡が切れたなら丁度良い。手紙」

「…泡なくなっちゃった…」

しょぼーん、と肩を落とす寿々花さん。

…そんな落ち込まなくても、もう一回石鹸水を補充すれば良いだろ。

使い捨てだと思ってんのか?勿体ない。

「…石鹸水、補充してきてやるから。良いから手紙を受け取れよ」

「…ほぇ?」

ほぇ、じゃないんだよ。

俺がさっきから声かけてんのに、アウトオブ眼中だからな。

国際郵便なんて珍しいもの受け取ってるのに。

まさか、外国からの手紙を無視してシャボン玉に夢中とは。

わざわざ送ってきてくれた人が可哀想。

差出人が誰なのかなんて、俺には分からないけど。

「寿々花さん宛てに、手紙」

「手紙…。私に?誰から?」

「さぁ…。日本語じゃないから分からない」

俺は、ボトルが空になったシャボン玉ステッキを寿々花さんから受け取り。

代わりに、片手に持っていた手紙を差し出した。

「どれどれ…。誰かから果たし状かなー」

外国からの果たし状って、凄くね?

「そもそもそれ、何語なんだ?」

「これは…フランス語だね」

フランス語だってよ。

俺が読めない訳だよ。英語でさえ辞書がないと読めないのに。

フランス語なんて、メルシーとボンジュールしか知らん。

ってことは、この手紙はフランスから来たのか?

つまり…送り主はフランス人…?