その日、我が家のポストに一通の手紙が入っていた。

何気なく手に取って、度肝を抜かれた。

差出人の名前と住所が、日本語じゃなかった。

英語…でもない。何語だこれ?

外国からの手紙…。国際郵便って奴か?

初めて受け取ったよ。

如何せん俺には、文通するような外国の知り合いはいない。

誤配…じゃないよな?

かろうじて、宛名がローマ字で書いてあって助かった。

どうやら、寿々花さん宛ての手紙のようだ。

凄いな。国際郵便を送ってくる相手がいるのか。

さすが、こういうところはお嬢様…と思ったが。

別にお嬢様は関係ないか。

しかし、誰からの手紙なんだろうな?

英語でさえ、教科書がないと読めないってのに。

英語でもない外国語じゃあ、俺が読めるはずがないんだが…。

まぁ、良いか。

俺宛ての手紙じゃなくて、寿々花さんに届いた手紙なのだから。

「ただいま、寿々花さん」

「あ、悠理君だ。お帰りー」

寿々花さんは家の中ではなく、ベランダに出て座っていた。

何をしているのかと思ったら、昨日俺がプレゼントしたばかりのシャボン玉。

早速、あれで遊んでいる。

百円の安い奴な。

マジでシャボン玉で遊ぶのか…。高校2年生が…。

ストローの端に泡液をつけて、ふーっと吹くと。

ふわふわふわ〜、っと小さな泡が宙を舞った。

「悠理君、見て見て。シャボン玉だ」

「…うん、シャボン玉だな」

何処からどう見ても、シャボン玉だ。

…やっぱり詰まらなくね?所詮泡と散る定め。

それなのに、寿々花さんは。

「綺麗だね、シャボン玉。見て、あの子大きい」

と言って、ひときわ大きなシャボン玉を指差した。

「あ、うん…」

「待て待て〜」

ふわふわ飛んでいくシャボン玉を、無邪気に追い掛け。

指でそっと触っては、パチンと割れるシャボン玉を見て楽しんでいる。

…童心に帰ってんなぁ…。

「面白いね、シャボン玉。毎日やりたいね」

「あ、そう…」

あんたが楽しんでるようで何よりだよ。

まさか学校の連中も、無月院家のお嬢様が、百円のシャボン玉で喜んでるとは思ってないだろうな。

「悠理君も一緒にやろうよ」

「え?何で俺が」

「一人でやってもこんなに楽しいんだもん。二人でやったら、きっともっと楽しいよ」

何?その謎理論。

俺は高校生にもなって、シャボン玉で遊ぶ趣味はないんだけど?

…いや、そんなことより。

「思い出した。それより、寿々花さん。さっきポストに…」

「こっちもやってみようよ。ほら、泡の出る魔法のステッキ」

「話を聞けって」

俺がプレゼントした、もう一つのシャボン玉の玩具。

電動のシャボン玉ステッキを取り出して、スイッチを入れた。