アンハッピー・ウエディング〜前編〜

…で、問題はこの後だ。

「ふー、ご飯美味しかった…」

「…」

「ケーキ。悠理君、デザートのケーキ食べたい」

…忘れてなかったか。

まぁ、忘れないわな。誕生日のメインイベントみたいなものだし。

「…頑張って作ってはみたけど、期待するなよ。本当手抜きだし、デコレーションも全然綺麗じゃないから」

「うんうん。早く早くー」

「…聞いてねぇし…」

フォークを立てて、机をコンコンして催促してきた。

お行儀が悪いぞ、お行儀が。

…仕方ない。持ってきてやるか。

俺は冷蔵庫の中から、作ったばかりのデコレーションケーキ(笑)を取り出した。

うーん…。我ながら残念な有り様。

ろうそくに火を灯したら、せめて雰囲気くらいはそれっぽくなるかなと期待したのだが。

別にそんなことはなくて、むしろ、雪山に山火事が起きたみたいな出来栄えだった。

これは酷い。

さすがの寿々花お嬢さんも、「思ってたのと違う…」と言い出すかと思われたが。

「ケーキ。ケーキだ。見て見て、おっきいケーキ。こんなの初めてだ」

失望するどころか、大興奮である。

欲しがっていた玩具を買ってもらったような、クリスマスの翌日に靴下の中身を見たような、そんな嬉しそうな顔。

あんた、こんな崩れかけの雪山デコレーションケーキで満足なのか?

「それじゃあ、いただきまーす」

「ちょっと待て。ろうそくを消してからにしろよ」

メインイベントだろ?

全部すっ飛ばして、ケーキにかぶり付こうとするんじゃない。

「ろうそく?…あ、歌を歌ってフーってする奴?」

「あぁ、うん…それだ」

これ、もしかして俺が手拍子して歌わなきゃいけないパターン?

自分から言い出したことだけど、何だか気恥ずかしい…と思ったら。

「よし、じゃあ歌おっか。じんぐるべーる♪じんぐるべーる♪」

「それクリスマスじゃん…」

「あれ?」

誕生日って言ったら、ハッピーバースデートゥーユーじゃないの?

つーか、自分で歌うのか?

「えーっと、じゃあ…。灯りをつけましょー♪」

「ひな祭りかよ…。誕生日の歌を歌えよ」

急がないと、ろうそくが溶けてなくなりそう。

「誕生日の歌か…。よーし。おめでとう誕生日〜♪おめでと〜♪」

何その歌?自作?

即興の自作の歌で誕生日を祝ってる人、初めて見た。

「今日は誕生日〜♪明日も誕生日〜♪」

明日は違うだろ。

今日だけだよ。何回誕生日あるんだ、あんたは。

「美味しいケーキで嬉しいね〜♪誕生日〜♪…はい、歌ったよ」

満足したか?

「…どうぞ、ろうそく消してくれ」

「よし、一気に全部消すからね。すーっ…。はーっ」

深呼吸じゃないかよ。

「あれっ、あんまり消えてない…!?」

「はーっじゃなくて、ふー、だろ。リコーダー吹くときみたいに」

「ふーってするんだね。よし。ひっ、ひっ、ふーっ」

それはラマーズ法。

ろくに誕生日祝いをしてもらったことがないばかりに、ケーキのろうそくの消し方も分からないとは。

それでも、ラマーズ法を3回くらい繰り返すことで、ようやくろうそくの火が全部消えた。

「はぁ、はぁ、疲れた。でも全部消えたよ」

「はいはい。おめでとう」

ぱちぱち、と拍手してあげた。

もっと人数がいたら、たくさんの拍手に囲まれて嬉しかっただろうに。

俺一人だけでごめんな。雰囲気出ないよな。

ケーキが貧相だから、余計そう思うよ。