アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「寿々花さん、出来たよ」

「…!わーい」

リビングに寿々花さんを呼びに行くと、ですぐに振り向いてソファから降りてきた。

それは良いんだけど、テレビ。DVDの再生を中断してから来てくれ。

「テレビ、テレビ一旦止めてくれ」

「あ、そうだった」

俺が声をかけると、寿々花さんはテレビのリモコンを操作して、ピッ、と再生停止ボタンを押した。

丁度、冷蔵庫の「中身」が主人公に襲い掛かろうとして、画面いっぱいにどアップされてるシーンで停止された。

よりによって、こんなえげつないシーンで止めるなよ。

わざとか?わざとなのか?

テレビ画面から、今にも飛び出してきそうなんだけど。

…見なかったことにしよう。

「…それより、飲み物は何にする?」

「?お茶じゃないの?」

「好きなもので良いよ。ジュースでも牛乳でも」

普段のご飯のときはお茶のみで、ジュースを飲むのは禁止してるんだけど。

「今日は誕生日だから、許す」

「わーい。悠理君が優しい」

いつもは優しくないってか?

それは心外だ。いつも優しいだろ?

「じゃあ、甘いジュースが良い。炭酸じゃない奴」

「炭酸じゃない甘いのな。…オレンジジュースで良い?」

「うん」

こんなこともあろうかと、ジュースのペットボトルを買い置きしておいた。

寿々花さんにはオレンジジュースを…。俺は何にしようかな。

まぁ、寿々花さんと一緒でいっか。

自分のグラスにもオレンジジュースを入れて、食卓に並べた。

俺が作った、渾身の大人お子様ランチ(ディナーだけど)を見て。

寿々花さんは、キラキラと目を輝かせていた。

「やったー。旗だ。オムライスに旗がついてるー」

オムライスにちっこい旗が立ってることに喜んでるお嬢様は、あんたくらいのもんだろうよ。

「食べて良い?食べても良い?」

「勿論。どうぞ」

「やったー。いただきまーす」

寿々花お嬢さんの食べっぷりと言ったら、それはもう清々しかった。

確かに今日は手間がかかったけど、それでも、ただの家庭料理の域を出ない、ありきたりな料理なのに。

どれもこれも、ホテルのレストランのディナーでも味わってんのかって思うくらい、美味しそうに食べるんだよ。

「もぐもぐ。美味しい。悠理君、これとっても美味しいよ。オムライス」

「そうか。良かったな」

「もぐもぐ。こっちのハンバーグも美味しい。もぐもぐもぐ…」

「あ、おい。口にいっぱい詰め込むなよ」

「もぐもぐ。ほひへのほはんより、ふっほほいひーね」

「…口の中空にしてから喋ってくれよ。な?」

何て言ってるのか、ほぼ分かんなかったよ。

「もぐもぐ…ごくん。お店のご飯より、ずっと美味しいね」

それは褒め過ぎだよ。

このお嬢さん、これまでなまじレトルト食品やカップ麺しか食べてこなかったもんだから。

舌が全然肥えてない。むしろ安っぽいんだよ。

でも、こんな嬉しそうに食べてもらえると…作り甲斐があるなぁと思う。