「…やっぱり、駄目かな?」

寿々花さんが、不安そうな顔で聞いてきた。

あ、いや。

ちょっと呆気に取られてた。

「いや、そういう訳じゃないけど…」

「そう…」

「…誕生日って、誰の?」

「私の誕生日。…再来週なの」

そうなんだ。

それは初めて知った。

よくよく考えたら、俺、婚約者の誕生日すら知らなかったんだな。

「で…誕生日のお祝いって、どういうことだ?」

「?そのままの意味だけど…」

…何すれば良いの?俺。

お嬢様の誕生日祝いって…何処かホテルの会場でも借りて、バースデーパーティーを開けば良いのか?

それとも、テーマパークを貸し切りすれば良いの?

お嬢様基準の誕生日、っていうのがよく分からん。

普通の家だったら、誕生日と言えば…プレゼントをもらって、ケーキを食べて、いつもよりちょっと贅沢なメニューを作って…。

家族揃って、ハッピーバースデートゥーユーを歌う。

これが、一般的な誕生祝いだと思うのだが。

寿々花さんが、どういう誕生祝いを期待しているのか分からない。

「私、これまで一度も誕生日のお祝いをしてもらったことがないの」

と、寿々花さんは言った。

…えっ…。

「誕生日を祝ってもらったことがないって…。…プレゼントもらったりしねぇの?ケーキ食べたり…」

「してない」

ふるふる、と首を横に振る寿々花さん。

…マジで?

「…誕生日おめでとうって、言ってもらったことないのか?」

「…誰も私の誕生日なんて、ろくに覚えてないから」

そ…。

…そうなんだ。

「あ。でも…椿姫お姉様だけは毎年覚えてくれてて…。バースデーカードを送ってくれたり、誕生日プレゼントをもらったこともあるけど…」

「…」

「椿姫お姉様以外の人からは、一度も…。そのお姉様も、今年は海外に行ってるから…。誰もお祝いしてくれる人がいないなぁって…」

「…」

「…だから、試験で良い点数取って、悠理君におめでとうしてもらいたかったの」

…。

…聞いたか?今の。

「…やっぱり駄目かな?」

俺が口を噤んでいるのを、拒絶の意だと誤解したようだ。

とんでもない。
 
そんな簡単なことを、まるで宇宙旅行でもお願いするかのように、大袈裟に。

「…あのな。そのくらい、わざわざ試験のご褒美にリクエストしなくても良いんだよ」

「…?」

「今度私の誕生日だから、お祝いして欲しいって…。そう一言言うだけで良いんだ。分かったか?」

もっと無理難題を注文されると思ってたのに。

散々勿体付けておいて、そんなことかよ。 

そのくらい、例え試験でオール0点だったとしても、引き受けたさ。

誕生日を祝ってもらうのは、誰もが当たり前に持ってる権利だろ。

一歳だろうが百歳だろうが関係ない。誰でも等しく、生まれてきたことを祝福してもらえる日じゃないか。

それをあんた、そんな大袈裟に…。

誕生日祝いをして欲しくて、あれほど試験勉強を頑張ってたのか?

寿々花さんの心情を思うと、あんまり気の毒で泣けてくる。