アンハッピー・ウエディング〜前編〜

試験勉強、すげー頑張ってんなぁとは思ってたけど。
 
まさか学年トップ…どころか全学年トップの成績を取るとは。

そこまでやれとは言ってない。

これが…本気を出した無月院寿々花の実力だと言うのか。

あのボーッとしたお嬢様に、こんな凄まじいポテンシャルがあったとは。

正直、俺、今めちゃくちゃ動揺してる。

すると。

「…?どうした?星見の兄さん。やけに狼狽えてんな」

激しく動揺しているところを、雛堂に見咎められた。

ぎくっ。

「い、いや…。その、すげーなって…。総合満点…」

「あぁ、無月院のお嬢様だろ?やべーよな、この人。さすがお嬢さんは頭の出来が違うぜ」

だろ?

このお嬢様、つい先月まで絵しりとりで遊んでたからな。

「美人でお金持ちで、しかも頭まで良いとか…。天は二物を与えないって言うけど、あれは嘘だよなー」

「そういうものですよ。神は不平等な存在です。この世で唯一平等をもたらすことが出来るのは、邪神イングレア様だけですから」

「是非お近づきになってみたいもんだ。きっと良い匂いとかするんだぜ」

噛み合わない会話してんな。

中二病全開の乙無は置いておくとして…。

良い匂いね…。良い匂い…は、別にしないと思うけど…。

強いて言うなら、今俺の着てる制服と同じ匂いがすると思うぞ。

同じ柔軟剤使ってるからな。

「自分のイメージだと、フローラルなお花の匂いとかしそう」

残念。今の柔軟剤はシトラスの香りだ。

「挨拶はきっと、『ごきげんよう』なんだぜ。一回で良いから言われてみたいぜ」

「…そんな挨拶、されたことねぇけど…」

普通に「おはよー」って言って降りてくるぞ。

俺のお古のジャージ着て、俺の自慢の糠床で作った糠漬け食べてるけど。

そんなお嬢さんで良かったら、どうぞ。

「お嬢様、お嬢様って言うけど…。実際はそんなに…普通の人と変わらないぞ。むしろ子供っぽいって言うか…」

「…?星見の兄さん、まるで見てきたかのように言うのな」

ぎくっ。

しまった、迂闊に口が滑った。

「い、いや…。あくまで想像だよ…」

「だろ?無月院家のお嬢様なんだから、きっと平民とは比べ物にならない、優雅な生活してるに決まってるって」

…優雅な生活ね。

特売で買ってきた卵で作ったオムライスを、大喜びで食べてるような人だけど。

あれも優雅な生活なんだろうか。

「彼氏とかいんのかな?」

「さぁ…。お嬢様だったら彼氏じゃなくて、許嫁がいるのでは?」

俺だよ。

「無月院のお嬢様の許嫁かぁ…。白馬に乗った金髪の王子様って感じ?」

馬にすら乗れねぇよ。悪かったな。

「いや、そういう人に限って意外と凡人なのでは?冴えないもやしっ子みたいな」

冴えないもやしで悪かったな。

畜生、想像で物を言いやがって…。釈然としねぇ。

本当のことを言う訳にはいかないから、好き勝手言わせておくことしか出来ない。

「…?星見の兄さん、さっきから何か言いたそうだけど、どうかしたのか?」

「…何でもねぇよ…」

内心、深々と溜め息をつきながら、俺は力なくそう呟くのだった。