普通、良いとこのお嬢様の寝間着って言ったらさぁ。

ナイトドレスみたいな。ふわふわでひらひらした格好を思い浮かべそうなもんだが。

そんなことはなかった。

あれは漫画だ。アニメの世界だ。

現実のお嬢さんは、薄汚れてよれよれ、ぴちぴちのジャージ姿で寝ていた。

知りたくなかった現実だな。

俺だって安いジャージで寝てるから、人のことは言えないけどさ…。

せめて、もうちょっと大きいサイズのジャージを着ろよ。

「格好…?何かおかしい?」

「そのよれよれのジャージ…。いつから着てるんだ?」

「小学校の時。体育で着てた奴だよ」

小学校の時の体操服かよ。

いつまで取ってあるんだ。

まさか無月院のお嬢さんの寝間着が、小学生のジャージとは。

せめて…中学の時のジャージにしろよ…。

やけにサイズがぴっちぴちな訳だよ。

小学校卒業してから、もう何年経ってるんだ…?

六年生のときに買ったとしても、5年以上経ってるだろ。

そんなに長く着てもらって、ジャージもジャージ冥利に尽きるだろうが…。

でも、限度ってものがあるから。そこまで擦り切れてるなら、そろそろ替えてくれ。

「せめて、もうちょっとマシな寝間着はないのか?パジャマとか…」

「?一年中、毎日着てるよ?」

着替えろ。

よし、今日でそのジャージの役目は終わりだな。もう捨てよう。

え?お気に入り?知らん。

「寝苦しくないのか?そんなぴちぴちのジャージで…」

「そんなことないよ。毎日こうだもん」

あ、そう…。感覚が麻痺してんのね。

と思ったが。

「ただ、背中と脚のところがキツいだけ」

やっぱりキツいんじゃないか。

普段着ならともかく、寝間着のサイズキツいって結構ストレスだと思う。

寝るときの服装って、普段着よりも気を配る人、いるだろ?

お嬢さんがダラダラと何時間も寝るのは、寝間着のせいで寝苦しいからという理由もあるのかもしれない。

…。

「せめてもっとマシな服、なかったかな…」

少し考えて、俺はふと自分の持ってきた荷物を思い出した。

「そうだ。ちょっと待ってろ」

「?何?」

俺は自分の部屋に戻って、持ってきた荷物の中から一着のジャージを取り出した。

男モノだから、少し大きいけど…。

小さいよりはマシだろ。大は小を兼ねるって奴だ。

「これ、俺のお古なんだけど、良かったら着るか?」

洗い替えのパジャマのつもりで持ってきたものなんだが。

持ってきておいて良かった。

「悠理君のお古?」

「うん。中学の時のジャージ」

「わー」

わーって何?