「あとは、クラスメイトが時計になっちゃったり…。くるくる踊ったり…」

時計…踊る?

俺の予想していたサスペンス映画の展開とは、全然違うんだけど。
 
最近のサスペンス映画って、人面魚出てくんの?

「その後、ちっちゃい部屋に閉じ込められて…皆いなくなった」

「人面魚に食べられて…?」
 
「そしたら二回目が始まって、色んなヒントに助けられながら、今度は誰も死なずに生きて帰れたんだよ」

…あ、そう。

よく分からないけど、それって楽しそうに語る夢なのか?

悪夢じゃね?

ラーメン海でにんにく爆弾に襲われた俺に、負けず劣らずの悪夢じゃね?

よくへらへらしていられるな…?

「夢見悪いんじゃねぇの?大丈夫なのか」

「うん。この程度の夢はいつものことだから。大丈夫」

「そうか…」

そういや、寿々花さんってよく、夢の話してくれるよな。

夢の内容を毎回詳細に覚えてるの、凄いと思う。

色んな夢を見ていて羨ましい。

…あ、そうだ。

「寿々花さん、今日はこれから何か予定あるのか?」

「ほぇ?」
 
「出掛ける予定とか…」

「そうだなー。この後はまず、悠理君の美味しいご飯を食べて…」
 
うん。

「もう一回お昼寝して、昨日の夢の続きを見ようかな」

…また寝るの?昼まで寝てたのに?

春眠暁を覚えずとは言うが、暦上もう夏だぞ。

つーか、そんな都合良く夢の続きを見られるものなのか?

「ふーん、そうか…」

「悠理君は何をするの?またお出掛け?」

「いや、出掛ける予定はないよ」
 
今日は買い物にも行かない。昨日のうちに、今日の分も買ってきたし…。

折角だから、昨日レンタルビデオ店で借りてきたDVD、観ようかと思って。

寿々花さんも、暇なら一緒に観るかなと思ったんだ。

まぁ、寿々花さんがホラー映画大丈夫なら、という前提付きなんだが。

「寿々花さん、あんたホラー映画って観たことあるか?」
 
「ほぇ?ほらー?」

「怖い映画だよ。昨日、友達に勧められて…怖い映画のDVD、何本か借りてきたんだ」

そう説明すると、寿々花さんは興味を惹かれたらしく。 

ちょこちょことこちらにやって来て、俺が手元に持っていた、レンタルDVDのパッケージを見下ろした。
 
雛堂が勧めてきたゾンビ映画と、例の『冷蔵庫の中』っていうホラー映画と。  

あと、雛堂イチオシの『オシイレノタタリ』っていう映画。この三作である。

この中だと、ゾンビが一番怖そうだよな。

冷蔵庫や押し入れから何が出てきたとしても、全然怖いと思えないもん。

特に冷蔵庫。

非常におどろおどろしいパッケージだが、寿々花さんは特にびっくりするようなこともなく。

「これ、観るの?映画なの?」

と、聞いてきた。

「映画だよ。怖い映画」

「でも、うちは映画館じゃないのに、映画観られるの?」

「これはDVDって言ってな…。家庭用のテレビでも再生出来るんだよ」

「おー、凄い。おうちが映画館になるんだね」

さすがに、映画館よりは遥かに画面が小さいけどな。

この様子だと、この箱入りお嬢様。

家でレンタル映画なんて、観たことないらしいな。

かく言う俺も、そんな経験はほとんどないから人のこと言えないけど。