アンハッピー・ウエディング〜前編〜

雛堂がホラー映画好きという、新しい新事実が判明した。

「ホラー映画、ねぇ…。怖いもの見たさということですか。愚かですね」

乙無、一刀両断。

「愚かとまでは思わないけど…。そういう趣味嗜好は個人の自由じゃね?」

「勿論、趣味嗜好は個人の自由です。ただ僕が言いたいのは…本当に恐ろしいのは、死んだ人間ではなく生きている人間だということです」

うーん、深い。

乙無の言い分も分かるけど、だからこそ人間は、エンタメとして怖いものを求めるんじゃないの?

…とはいえ、俺はホラー映画…観る趣味はない。

「もっと他に…他のジャンルの映画が良いんだけど…」

「え?アクションとか?推理モノとか?それともSF?」

どれもよく分からん。

実家の母は、よく推理モノのドラマを観ていたっけ…。

俺も一緒になって観たことあるけど、だからって好きかと聞かれたら別に…。

それに、寿々花さんは推理モノは興味ないんじゃないだろうか。

頭が残念だから。

「特に…好みはないけど」
 
「じゃあホラーにしておこうぜ。ほら、もうすぐ夏だし」

まだギリギリ4月なのに、もう夏の話かよ。

「マジで面白いからさ。観てくれって。全年齢なら妹ちゃんでも観れるよ」

「いや…そういう問題じゃ…」

「それとも、こっちにする?妹ちゃんはこっちの方が好きなのかね」

と言って、雛堂が指差したのは。

女児向けヒーローのアニメ映画、だった。

キラッキラしてんなぁ、パッケージからもう…滲み出るキラキラ臭…。

大きなお友達が飛びつきそう。

「さすがにそれは無理…」

小っ恥ずかしくて、レジに持っていくのも躊躇われる。

初めて雛堂がホラー映画以外の作品を勧めたと思ったら、寄りにもよってあんな可愛らしいアニメ映画。

無理。どっちに転んでも無理。

だったらせめて…店員さんに見られて恥ずかしくない方を選ぶしかないじゃないか。

「…分かったよ、そこまで言うなら…雛堂のおすすめホラー映画、借りてみるよ」

「おっ、よしよし。そう来なくちゃ」

半ば強制されたようなもんじゃないか。

寿々花さん、ホラー映画大丈夫なんだろうか?

怖がって、一人でお風呂入れないとか言い出したらどうしよう。

そのときは途中でやめて、返しに来れば良いか。

どうせ暇潰しなんだし。

こうして、俺は雛堂おすすめのホラー映画を三作借りて、レンタルビデオ店を後にした。

ちなみに、乙無は「眷属の仕事が忙しい」とのことで、手ぶらで帰っていた。

ゴールデンウィークに映画を観る余裕さえないのか。やっぱりブラックなんだな、邪神の眷属って。