アンハッピー・ウエディング〜前編〜

しかし、乙無は俺の心配をよそに。

「お、乙無の兄さん…。食えんの?それ」

さすがの雛堂も、心配した様子だったが。

「…もぐもぐ」

乙無は平然とした顔で、一心不乱にクレープを頬張っていた。

…普通に食ってる。生クリーム増し増しクレープを。

生クリーム増し増しなだけあって、たっぷりの生クリームが、クレープの生地に溢れ返らんばかりに挟んである。

見ているだけで胸焼けがする代物だが、乙無は平然と食べている。

更に、もう片方の手に持っているフルーツワッフルサンドも。

こちらは、厚切りのカットフルーツを分厚い二枚のワッフルでサンドしてある。

勿論、生クリームもたっぷりである。

クレープとワッフルだけで、凄まじい生クリームの量。

それなのに、乙無は食べる。平気な顔をして食べる。

あっという間に、バキュームカーに吸い込まれるかの如く。

そして。

「ふぅ、美味しかった」

俺と雛堂が目を丸くしている間に、速攻で完食。

何なら、にんにく豚丼より早かったぞ。

ちょっと満足そうな顔をしてるから、もしかして乙無…あんた、かなりの甘党だな?

邪神の眷属の胃袋の限界、どうなってんだよ。

「大丈夫なのか…?乙無…」

無理して食べてないよな。いきなり胃が反乱を起こしてマーライオン…なんてことはないよな?

しかし。

「何がですか?」

乙無はけろっとしている。

どうやら…マジで強がっている様子はなさそうだ。

「マジかよ…。乙無の兄さん、痩せてるのに…。痩せの大食いって奴?」

「何度も言ってるでしょう?邪神の眷属は人間じゃないんですから。人間のように食べられる量に限界はありません」

そうか。それは凄いな。

「俺、入学して初めてあんたを尊敬してるよ」

「…これまでは、僕を何だと思ってたんですか?」

いや、ただの拗らせ中二病かと。

まさか、こんな特技(?)があったとは。

「それに、まだ桜餅が残ってますし…あ、そうだ、これ」

和菓子屋の紙袋に手を突っ込んだ乙無は、ふと思い出したように、赤いビニール袋を手に取った。

雛堂がおすすめした近隣の店は、クレープと桜餅とワッフルの三軒…だったよな。

じゃあ、その赤いビニール袋は一体。

「ワッフル店の隣に、スムージーのお店があったんです。野菜とフルーツのスムージー。これ飲んだら、胃の中が落ち着くかと思って」

そう言って、乙無は赤いビニール袋の中からテイクアウトしたスムージーを三つ、取り出した。

「こっちがいちご、こっちがキウイです。二人共好きな方をどうぞ」

俺達の為に買ってきてくれたらしい。

…とても有り難い。

「マジか。乙無の兄さん、さんきゅ!」

「乙無…。あんた、意外と良い奴だったんだな…」

「…意外と、って何ですか…」

俺、今まであんたのことただの中二病だと思ってたけど。

今日からは認識を改めるよ。

意外と良い中二病だった。