アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「本当は、もっと色々…。ほら、そこの店にクレープ屋があるだろ?」

と、雛堂はラーメン屋から数軒隣の店を指差した。

あれ、クレープ屋なのか。

「あそこのクレープ、めっちゃ美味いんだよ。生クリーム増し増しでさぁ」

「そうか…。美味いんだろうな…」

「そう、めっちゃ美味いの」

でも、全く食べたいと思わない。

お腹いっぱいだから。

むしろ、生クリームと聞いただけで「おえっ」ってなりそう。

生クリーム好きな人ごめんな。

「それから、あのクレープ屋の二軒隣に和菓子屋があってな?」

更に、雛堂はおすすめの店を教えてくれた。

今度は和菓子屋か。

「そこの桜餅が美味いんだわ」

「桜餅か…。それも美味しそうだな」

「そう、めっちゃ美味しいぜ」

でも、やっぱり全く食べられない。

この状態であんこはキツいよ。

「それから…和菓子屋の向かいに、ワッフルの店があってな…」

と、雛堂が教えてくれた。

ワッフルの店か…。お洒落だな。

なんか、甘いものばっかりじゃね?

「そこのフルーツワッフルサンドが、この世のものとは思えないくらい美味い」

「そうか…。そう言われると、是非食べてみたいな…」

「そう、是非食べて欲しいんだけどさ…」

…残念ながら、今は無理だな。

にんにく豚丼を消化するまでは無理。

少なくとも、あと一時間くらい待って欲しい。

ちょっと胃の中が落ち着かないと、他のものなんて食べられないよ。

「やれやれ、全く情けない人達ですね」

乙無が、肩をすくめてそう言った。

何だと?

「乙無…。あんただって強がってる振りしながら、本当は腹いっぱいなんだろ」

「だから、邪神の眷属たる僕に満腹感も空腹感もありません。食べろと言われれば、際限なく食べられますよ」

嘘つけって。

しかし、乙無は。

「ちょっとここで待っててください」

そう言い残して、てくてく歩いていってしまった。

え?

乙無の意図が分からず、俺と雛堂は互いに顔を見合わせ、首を傾げていた。 

すると、そのまま待つこと15分程。

買い物を終えた乙無が戻ってきた。

その姿を見て、俺と雛堂は仰天した。

片手に生クリーム増し増しクレープ、片手にフルーツワッフルサンド。

そして、和菓子屋の白い紙袋を肩にかけていた。

更に、もう片方の肩に赤っぽいビニール袋を提げていた。

…マジ?

さっき言った雛堂おすすめの店、全部回ってきたの?

あんた、それ…買ってきたのは良いけど、食べられるのか…?

邪神の眷属には空腹感も満腹感もありません(キリッ)って、強がってない?

そういう無理はしない方が良いと思うんだ、俺。