「…どうしたよ?」

手を止めるなよ。終わらないだろ。

ただでさえ、掃除するところはたくさんあるのに。

「自分ら、何で掃除なんかしてんの?」

雛堂が首を傾げた。

何でって言われても…。

「掃除の時間だからに決まってるじゃないですか」

俺の代わりに答えてくれたのは、雑巾で窓を拭いている乙無だった。

邪神の眷属(笑)でも、掃除は真面目にするんだな。

…それはさておき。

「乙無の言う通りだ。掃除の時間なんだから、掃除するのは当たり前だろ」

「そうじゃねぇ。自分が言いたいのはそういうことじゃねぇんだよ」

真面目な顔で、雛堂がそう言った。

…じゃあ、何だよ。

「学校に掃除の時間があるのは、当たり前だと思うんだよ。それは納得してんの。小学校の時もあったし、中学の時もあったし、何なら自分の住んでる家も、毎日掃除の時間がある」

俺も同じだよ。

大抵何処の学校でも、掃除の時間はあるものだろう?

だから、この聖青薔薇学園にも当然ある。

廊下を掃いて、モップ掛けして、窓を拭いて…。

他にもやることはたくさんだ。

しかし、小学校や中学校の時とは違うこともある。

「でもさぁ…掃除の時間30分って、長くね?」

…うん。

それは…俺も、ちょっと思ってたよ。

雛堂が口を尖らせてるのも分かる。

聖青薔薇学園の掃除時間は、午後3時半から4時までの30分間である。

しかもこれ、準備と後片付けの時間は入ってないからな。

3時半には掃除を開始出来るように、5分前には掃除道具を持って、掃除場所に到着していなければならない。

それから、きっかり30分掃除をして。

4時になったら、ようやく後片付けが出来る。

だから、後片付けも全部終わった頃には、4時10分くらいになってる。

準備と後片付けの時間も含めてたら、掃除の時間が毎日…実質40分くらいあるんだよ。

これって、結構長いと思わないか?

「自分、小学校の時も中学校の時も、掃除時間は15分だったぞ」

俺のところも、小学校の時は15分だったよ。

中学の時は20分だった。

それも、準備と後片付け込みでな。

そう思うと、高校になって約40分の掃除時間…は、かなり長いように感じる。

ほぼ授業一回分じゃん。

それを毎日だから、そこそこの重労働だよな。

「なぁ、乙無の兄さん。乙無の兄さんが小学校の時、掃除時間何分だった?」

「さぁ、忘れましたね。僕、小さい頃まともに学校行ってませんから」

と、窓拭きしながら乙無が答えた。

「お?何、不登校だったの?」

「違いますよ。遥か昔、僕が子供の頃…世界は混沌の闇に包まれていて、毎日生きるか死ぬかで、呑気に学校なんて通っている暇はなかったんです」

…なんか語り始めたぞ。

遠く虚空を見上げて、乙無は昔を懐かしむように喋っていた。

「世界の不平等に泣き、生きる意味や目的を求めて彷徨った日々…。そう、あの頃に僕は、邪神の眷属となる決意をしたんです。この不平等な世界を救う為には、邪神のお力に縋る他ないと…」

「ふーん。よく分からんけど、掃除サボってたってこと?」

「…何でそうなるんですか」

要するに、覚えてないってことだろ?

だったら素直にそう言ってくれよ。