「あ?お嬢さん?」

きょとんと首を傾げる雛堂。

しまった。失言。

「いや、その…」

「お姉ちゃんじゃねぇの?お姉ちゃんと妹が居るって…」

居るとは言ってないけどな。雛堂が勝手にそう解釈しただけで。

「…もしかして星見の兄さん、自分に隠し事してるんじゃないだろうな?」

じー、っと疑いの眼差しを向けてくる雛堂。

ぎくっ。

意外と勘が良いじゃないか。…見た目に反して。

「別に…隠し事なんて」

「一緒に遊ぶ相手って…本当にお姉ちゃんか?本当に妹なのか?」

「…それは」

それは…雛堂が勝手に誤解してるだけじゃね?

俺は姉妹がいるなんて一言も、

「さては…星見の兄さん、彼女とデートに行こうってんじゃないだろうな!?」

「ぶはっ…」

あまりに突拍子もないことを言うものだから、俺は思わず噴き出してしまった。

何でそうなるんだよ。

お嬢さんは姉妹じゃないし、そして彼女ではない。

婚約者の仲なのだから、彼女と言っても間違いじゃない…のかもしれないが。

少なくとも俺にその気はないし、お嬢さんもそれは同じだろう。

「…彼女じゃないって…」

「ほんとか?隠してるんじゃないよな?」

「隠してないよ」

これだけは、自信持って言えるぞ。 

お嬢さんは、断じて彼女などではない。

すると。

「ふーん…。ま、そっか。星見の兄さん、イケメンだけど、女にモテるタイプって感じじゃないもんなー」

笑いながらそう言われた。

ぶん殴るぞ。

「でも、もし彼女が出来たら教えてくれよ」

「…出来ねぇよ…」

「あと、美人なお姉ちゃん紹介して」

真面目な顔して、何を言い出すんだよ。

絶対会わせないからな。どうしても会いたきゃ、新校舎に行くんだな。

「…全く、俗物の会話ですよ。これだから人間は…」

煩悩全開の雛堂を見て、やれやれ、と乙無が溜め息をついていた。

お前も俗物の人間だよ。心配しなくても。