お嬢さんは、改めて制服に着替えてから降りてきた。

お帰り。

「朝ご飯、ちょっと待ってな…。今弁当作ってるところだから」

お嬢さんがこんなに早く起きてくるとは、想定していなかったから。

朝ご飯まで、ちょっと待たせてしまうことになりそうだ。

すると、お嬢さんは。

「お弁当?」

きょとん、と首を傾げた。

「うん、弁当。昼に持っていく…」

「悠理君、お弁当食べるの?」

「…食べるよ。なんか問題が?」

お弁当持参とか貧乏臭い、と思ったか?

別に良いだろ。中学の時からずっとそうだよ。

俺の通ってた中学校、給食がなかったから。

「ううん。でも珍しいなぁって思って。皆お昼ご飯は、カフェテリアやレストランや、ベーカリーで買って食べてるから」

「…」

「悠理君はそうしないの?」

「…しないよ。悪かったな」

旧校舎には、カフェテリアどころか学食どころか…飲み物の自販機もないからな。

新校舎は良いな。学校の中にレストランまであって。

そういう、レストランとかベーカリーは、新校舎の生徒の為の設備であって。

旧校舎の生徒は、立ち寄ることも許されていない。

昼休みは皆教室で、大人しく持参した弁当や、コンビニで買ったパンを食べてるよ。

「そっかー。お弁当好きなんだね」

いや、お弁当が好きって言うか…他に選択肢がないからなんだけど。

でも、もし俺達にも新校舎のレストランが解放されたとしても。

多分、行かないと思う。

だって、周りを見たら新校舎のお嬢様だらけなんだろ?

とてもじゃないけど、落ち着いて食事するどころじゃないよ。

お嬢様学校のレストランともなれば、それなりの値段もしそうだしな…。

「悠理君のお弁当、美味しいもんね。学校でも食べられたら幸せだよねー」

「いや…。別に、普通の弁当だけど…」

「ねぇ、悠理君」

「…何?」

相変わらず、好奇心いっぱいの表情で。

「私にも、お弁当作ってくれないかなぁ」

とんでもない頼み事をしてきた。