アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「お嬢さんは良いな。面白い夢を見られて」

「普通じゃないの?」

…普通…なのか?

俺、人様がどんな夢見てるのかなんて知らないから。

俺の夢はいつも、大抵、つまんない夢ばっかだよ。

皆そんなもんだと思ってた。

「私は昔から、よく色んな夢を…。…あ」

あ?

お嬢さんは何かを思い出したように、ピタッと静止した。

…どうしたよ?

「何かあったか?」

「…思い出した。悠理君に話そうと思ってたこと。…今日、学校の昼休みのときに、中庭で悠理君そっくりの人を見たんだー」

「…」

…思い出したの、今なのか?

夢の話より優先度低いの?俺。別に良いけど。

しかもお嬢さん、昼間見たあれが俺だと気づいてなかったのか。

そっくりさんだと思ってたらしい。

成程、声をかけてこなかったのはそれが理由か。

別人だと思ってたから…。

「あんまり悠理君にそっくりだったから、びっくりしてね、じーっと見ちゃった」

「あ、そう…」

「あれってもしかして、ポルターガイストって奴なのかな?」

よく分からんけど、多分お嬢さんが言いたいのはドッペルゲンガーのことだと思う。

それから…。

「そっくりさんじゃなくて、それ、俺だよ」

「えっ」

「今日、新校舎の掃除をさせられたからな。新校舎にお邪魔してたんだ」

「…」

お嬢さんは、目を真ん丸にして驚いていた。

知らなかったか?

あんたらの新校舎の掃除をしたのは、男子部の新入生達なんだぞ。

俺達の校舎じゃないのに、掃除させられたんだからな。

精々、汚さずに使ってくれよ。

「…来てたの?あれ、本当に悠理君だったんだ」

「そうだよ」

「そっかー。じゃあ、手を振れば良かった」

危なっ。

俺だと確信してたら、手を振るつもりだったのかよ。

どうやらこのお嬢さん、学校で俺達の関係を隠すつもりはないらしい。

それは困る。大変困る。

俺達の関係については、黙っておいてもらった方が良いのだ。

…新校舎と旧校舎に分かれている上に、学年も違うから…そうそう鉢合わせする機会はないと思うが。

とはいえ、今回みたいなこともあるし。

同じ学校の敷地内にいる限り、また今日みたいに、思わぬところで鉢合わせする危険はある。

だったら、今のうちに釘を差しておくべきだろうな。

「あのな、お嬢さん。頼みがあるんだが」

「何?」

「もし今後、学校で俺を見かけても、他人の振りをしておいて欲しいんだ」

「…」

お嬢さんは、俺が何言ってるのか分からない、みたいな顔でぽやんとしていた。