「起立。礼」
「おねがいしまーす。」
桜岡第2高等学校の2年1組ではいつも通りのHRのはずだった。
しかし、先生のお得意の自慢話が今日は無い。おかしい。そうクラスのみんなが思い始めた時、見知らぬ顔がクラスに入ってきた。
かなり美人な子だ。
「初めまして。今日から桜岡第2高等学校に通うことになりましたました。楠木優良です。よろしくお願いします。」
教室中に盛大な拍手が響く。主に男子の。
今は9月。この時期の編入はかなり珍しい。
虐められないといいなと思った。このクラスには猛毒を持つ女王蜂がいるから。
案外、その転校生はすぐにこの蜂の巣に馴染んだ。女王蜂にも好かれていた。だけど、ときどき変な子だなと思うこともあった。授業中ずっと誰かを観察するように見ては、ノートに何かを書き込んでいたり、誰かといつも電話をしていたりする。
なんか嫌な予感がする。あの子は只者じゃない。
その予感が的中したのは9月6日。私たちは10年たった今でも忘れない。この日だけは。
その日は、文化祭にむけて放課後までクラスのみんなで準備をしていた。他のクラスははもうほとんど帰っているだろう。
このクラスは仲が良くない。全て女王蜂の言いなりだ。女王蜂こと四宮芹奈は、大企業四宮製薬の一人娘で容姿、頭脳、身体能力、全てにおいて完璧だった。強いていうなら裏の性格が別人だと言うところだ。噂で聞いたが、四宮芹奈は裏で虐めて先生、生徒を自殺にまで追い込んだらしい。はじめは、クラスのみんなは信じていなかった。だが、今年の5月アイツが死んだことでみんな女王蜂の顔を窺うようになった。
早く終わらせて帰りたい。だが、まったく進んでいない。先生も用事があると帰ってしまった。あれ?あの転入生の子がいない。どこだろう…そう思った時だった。
ガチャッ。教室のすべての鍵が閉まる音がした。えっ?クラス中がざわめき出す。
「なに?どーゆーこと??」
女王蜂が呟く。
すると、前方のドアから例の転校生楠木優良が入ってきた。
「ユラ?どういうつもり?」
これはその転校生によるものだと把握した女王蜂が大声をあげる。
「みんな自分の席について。」冷たく言い放った。
「あ?どういうことか先に説明しろよ。」
クラスいちの荒れ男、野崎勝己が机を蹴る。
「黙って席に着いて。」冷たい目で睨みつける。
「なんだよその目は!うぜぇんだよ」
野崎通称狂犬が殴り掛かる。
きゃあ!女子が叫んで目を塞ぐ。
ドンッ。パァンッ。
え...?狂犬が倒れている。転校生の右手には拳銃が握られている。生きてい、る?
よく見ると、狂犬の倒れ他床に穴が空いている。狂犬は震えて涙を流している。
「ねっ!私に逆らうと命無くなっちゃうよ」
満面の笑みでいった。この子は異常。そう察したクラスのみんなは、震えながら自分の席に座った。
「起立。礼。」転校生が大きな声で言う。
「ほら、早く」みんなは恐れていつもの5分の1の大きさで挨拶をした。
「今からスマホ回収しまーす!」
「あ、もし誰か外部の人に言ったら即殺すから」
「はいはい!かいしゅー」
みんなのスマホが回収された。
「38.39.40.あれ?あと2つ足りないなー
誰か持ってる人いるよね?ずるい人はだ〜れだ」
「人数分揃ってるじゃない。なんであと2つなの?」女王蜂が言う。
「私ねぜーんぶ知ってるのこのクラスのことなら!はやくでてきたほうがいいんじゃないかなー?岩重くーん、窪田さーん」
「えっ?」クラスのみんなが2人の顔をいっせいに見る。
「ふたつ持ってるよねーお見通しだよ?」
怖い。この子はおかしい。
2人はもうひとつのスマホを袋に入れた。
「よし!じゃあこれから特別授業を始めます。」
「特別授業?」
「そうそう。じゃあ第一問!みんなが犯した罪は何でしょーか?」
「罪?」「ねぇーよそんなの」男子が言う。
「いいえ。みんなは大きな罪を犯した。」
大きな罪...このクラスのみんな...?
まさか、ね...
「制限時間は今日の午後9時まで!間違えたらどうなるかはお楽しみだよ〜」
午後9時?今は午後8時2分だから、あと約1時間しかない。
「みんなで話し合っていいよ。私はまた9時に来るね。」転校生が教室を出ていった。
「ねえ、誰か心当たりがある人いる?」
学級委員長が言う。こういう時でも皆をまとめようとするのは流石だ。
「ねぇ、あの事じゃない?」
「もしかして...」
「アイツのこと?」女王蜂が言う。
名前が無いアイツ。クズ木ユリそういう名前だったはず。もうみんな忘れ始めてるけど。皆からは殺人鬼ってイジメられていた気がする。
「でもなんの関わりがあるのよ?あの転校生と」
「そんなの知らねーよ」
女子と男子が言い争う。
「落ち着いて!」委員長が叫ぶ。
「思い当たるふしも他には無いですし、回答するのはあの事で良いですか?」
みんなは殺人鬼を虐めたことをあの事という。
「分かったそれで行こう。」みんな納得のようだ。
ガラッ「みんな答えでた?」
「はい。僕たちが出した答えは、今年の5月クズ木さんをいじめたこと。です。」
クラスがしんと静まる。
「んふ、クスクスクスワッハ。」転校生は腹をかかえて笑い出した。
「な、何が面白いの?」
「ほーんとにこのクラス、腐ってんな笑笑」
「は?」
「自分が殺した人の名前も覚えて無いなんてバカにも程があるでしょ」目が笑ってない。
「本名楠木優李。」
「くすのき、ゆうり?」え...?
「もう分かったでしょ?ユリは私のおねーちゃん。あんたたちに殺されたけどね?」
「まさか、だって顔似てなくない?」女王蜂が言う。
「私にとってユリは命の恩人だった。両親が交通事故で死んでまだ5歳だった私は親戚もいなくて、そんな時にお父さんの部下だった楠木一家ユリの家が私を家族として迎えてくれた。」
「だけどある時事件が起こった。去年の6月、隣の県で男子高校生殺人事件が起こった。容疑者は15歳の少女。未成年のため匿名。ネット上でクスノキユウリという名前だと誰かが呟き広まった。それから、同姓同名のユリは家に帰って来る時に裸足で帰ってくるようになった。ある時には全身びちょびちょで。どうしたの?って心配すると、いつもまた転んじゃった!もー最近運悪すぎって笑ってた。ある日髪の毛が不揃いで帰ってきた時、私はイジメを確信した。先生にも言った。だけど助けてくれなかった。」